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Tue, 19 November 2024

第170回 オリンパスから企業統治を考える

事件の概要とは

カメラ、医療用内視鏡、産業用検査機などの精密機器分野の大手日本企業であるオリンパス社の英人社長ウッドフォード氏が、取締役会で突如解任された。同氏は、オリンパス社が、M & Aに絡み、実体のない米ニューヨークの投資コンサルタント会社であるAXES社に法外な手数料を払ったのは背任行為に当たるとして、抗議を続けている。実体のない会社に支払われた金額は700億円近いが、その使い道が不明との報道もなされている。続いて10月26日には、社長に復帰したばかりの菊川氏が、「10月14日の社長交代に端を発する一連の報道内容や株価の低迷などを通じ、お客様、お取引先様、株主の皆様など各方面にご心配、ご迷惑をおかけしたことを踏まえ」て、社長兼会長を辞任すると発表した。

日本の新聞があまり報道していないのとは対照的に、英紙、米紙では、日本企業のガバナンスの不十分さ、情報開示の不明朗さを示す例として連日報道が続いている。手数料が、オリンパスの欧州子会社から、英銀とドイツの銀行を経て、米国の会社に支払われたため、ついに英国の重大不正捜査局(SFO)と米国の連邦捜査局(FBI)が調査に乗り出した。

もとより、M & Aや手数料の妥当性については知る由もないが、菊川氏の退任の公式な理由が、「今回の件でご迷惑をおかけした」というのでは、到底、金融市場や欧米のマスコミは納得しまい。問題の核心は、手数料が法外なものであったのか、そしてそれが事実なら背任行為に当たるのかどうか、であろう。そうした核心に触れないままで辞任すると、事態をうやむやにしようとしているだけだと思われてしまう。

問題を誰が解明するのか

根拠があるわけではないので筆者の想像に過ぎないが、さすがに一流企業の経営者が説明責任についてすら分かっていないとは考えにくい。ならば、何か言えないことがあるとみるのが自然である。法外な手数料を払わねばならぬ何か弱みがあり、それを公表できないということなのだろう。脅迫があるのかも知れない。しかし、それなら第三者の力を借りて事態を解明することが近道だ。

説明責任については、欧米では高い意識が持たれており、翻って日本は遅れている、とこれまで言われてきた。だが、実は日本でも最近の進歩は目覚ましい。例えば、福島第1原子力発電所での事故の原因究明は、政府ではなく、憲政史上初めて国会に置かれる事故調査委員会の手に委ねられることが、超党派の全会一致により国会で決まった。失敗の当事者による自己究明によって出された調査結果では信用度が薄い。三権分立がその基本思想であるように、第三者による解明が、公正と真相探究を実現するためのプロセスなのである。事故調査委員会を機能させることができるかどうか、国会のスタッフの責任は重い。

このように考えると、オリンパスの経営陣が、第三者委員会を作ると説明しているのは、一見正しいことのように見える。だが、その実施時期すら示しておらず、またその人選が経営陣により成されるのであれば、やはりお手盛り感が出る。会社法の制度は各国で異なるが、日本の会社法で、取締役会の失敗の解明をするのは監査役または監査役会である。今回の件でも、まずは監査役が取締役会の行為決定を検証することが必要で、第三者委員会を設けるのはその後ではないか。

多国籍企業に必要な企業統治

何か事件があると、英国企業や英国政府はしょっちゅう第三者委員会を設けているので、英国居住者ならこうした仕組みには慣れているだろう。一方、日本のマスコミの論調は、問題を追及しているが、問題解明の枠組み自体を問題視するものは少ない。

円高局面で日本企業の海外への進出が著しいが、そうした日本企業は、グローバル企業、多国籍企業となる覚悟を十分に持っているのだろうか。会社が逆境に立ったとき、取締役の責任、監査役の役割、そして金融市場や欧米さらにはアジア各国のローカル・ルールの中で、企業統治の責任を果たしていく必要がある。英語、英米法系についてのみならず、アジアの現地語、法制、さらには企業統治文化まで調べ上げて対応する人材を育成することが多国籍企業のリスク管理の要諦である。オリンパスの事例を英国から見ると、こうした人材を確保したり然るべき覚悟を持つことなく、円高だから、また日本国内の内需は縮小一方だからというだけで海外進出することは危ういと思うが、いかがか。

(2011年10月27日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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