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Fri, 22 November 2024

第86回 お散歩編:兵(つわもの)どもの夢の跡、西ロンドンの土地事情

ムーアゲート駅の南に甲冑師 & 真鍮細工師ギルドがあります。14世紀前半に組織され、中世から甲冑を製造する職人組合で、ホール内にたくさんの甲冑が飾られています。1708年に真鍮細工師ギルドと統合されて現在の名称に変わりました。国内産の真鍮の品質が低く、良質なものはオランダやドイツから輸入されていましたが、18世紀を境に銅の精錬や製造技術が改善され品質向上。それに貢献した人物がウィリアム・ドックラです。

甲冑師 & 真鍮細工師ギルド
甲冑師 & 真鍮細工師ギルド

彼は甲冑師ギルドの父の下、シティで誕生。ブリストルの銅山会社やエッシャーの真鍮会社だけでなく、様々な事業に手を広げました。1672年に設立された王立アフリカ会社で奴隷商売を始めたり、1660年、チャールズ2世の勅命を受けて設立された総合郵便局にぺニー・ポスト制(ロンドン近郊の郵送料を定額スタンプに統合) を導入したりしました。でも晩年は事業の失敗で多くの借金を抱えたまま、静かに亡くなったようです。

ドックラが導入したペニー郵便局跡
ドックラが導入したペニー郵便局跡

彼の義兄弟のアレクサンダー・デービスは司法書士でした。大叔父のヒュー・オードリーから莫大な資産を相続します。大叔父はインナー・テンプルの法律家かつシティの絹商人、さらに貸金業を営む伝説の金儲け師。返済に困った貴族からハイド・パーク東側(現在のメイフェアとベルグレイビア地区)の広大な土地をもらい受けます。でも当時は自然豊かな湿地帯。18世紀半ばまで5月に行われた村祭り、メイフェアは今も地名に残ります。

元々の家畜フェアが5月祭りに転じ、メイフェアの名の由来となった広場
元々の家畜フェアが5月祭りに転じ、メイフェアの名の由来となった広場

ところがデービスは1665年のペスト大流行で病死、代わって幼い娘のメアリーがその土地を相続しました。やがてメアリーは1677年、チェシャーの田舎貴族だったグロブナー家にお嫁入りし、持参金として500エーカーの土地を手渡します。これが英国の大富豪、グロブナー家が誕生するきっかけになりました。ペスト大流行や1666年のロンドン大火でシティは壊滅状態。ロンドンが発展するには貴族が所有するシティの西側を開拓するしかありません。

グロブナー家の邸宅跡に建てられたホテル
グロブナー家の邸宅跡に建てられたホテル

都心の一等地に残るグロブナー広場
都心の一等地に残るグロブナー広場

こうしてテムズの下流=東ロンドンの労働者街、中流がシティの商業街、上流の西ロンドンが貴族街というすみ分けが出来上がります。18世紀以降のロンドンは不動産四天王、グロブナー家、カドガン家、ウォールデン家、ポートマン家による開発で庭園を囲む邸宅、馬車が通る広い道路が巡りました。貴族が土地の所有権(フリーホールド)を保ちながら、長期の借地権(リースホールド)を使って不動産を開拓し、兵どもの夢が開花したのです。

メイフェア地区の街並み
メイフェア地区の街並み

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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