第114回 バタシー犬猫保護施設と招き猫
クリスマス時期になると必ず上演されるパントマイム劇「ウィッティントンと猫」。14世紀以降、シティの市長を4度務めたリチャード・ウィッティントンと猫のこの成功物語は、英国人家庭にとって欠かせない物語のようです。ところで、そのウィッティントンは愛猫のトミーを貿易船に差し出すことを余儀なくされた後、丁稚奉公を諦めて故郷に帰る途中、ハイゲート・ヒルの坂道でシティ・ボウ教会の鐘を聞いてシティに折り返します。実はこの付近のホロウェイには、動物の保護に献身的に取り組む老女メアリー・ティルビー夫人の話がありました。
ハイゲート・ヒルにある、ウィッティントンの猫の像
不遇な犬を救いたいと全財産を投げ出し、イズリントンはホリングワース・ストリート(現在のフレイトライナーズ農園近く)で、夫人が弱った犬を引き取り始めたのは1860年のこと。当時はまだ動物愛護精神が浸透しておらず、すぐに捨て犬がたくさん集まり、場所が不足してしまいます。しかし、小説家のディケンズなどの支援を受けて1871年にバタシー・パークに移り、現在の「バタシー・ドッグズ & キャッツ・ホーム」に発展しました。
ティルビー夫人の功績をたたえ、イズリントン区役所が授与した
記念プレートがあるフレイトライナーズ農園
英国では健康な犬猫を処分しないことが徹底されており、同施設に預けられる犬猫は年間7000匹超と言われ、1カ月程で新しい飼い主に引き取られて行くそうです。英国ではペットショップで犬猫を販売しませんし、保護施設で訓練された犬猫を引き取る場合も、飼い主の審査、カウンセリングが行われ、飼い主も十分に訓練されます。
バタシー・ドッグズ & キャッツ・ホーム
そういえば現職の首相官邸ネズミ捕獲長である、猫のラリー君、外務省担当のパーマストン君、財務省担当のグラッドストーン君もこの保護施設の出身ですからよく訓練されています。犬猫を捕獲したらすぐ処分する日本の保健所とは雲泥の差。日本ではペットとしての飼い猫が平安時代、飼い犬は江戸時代に始まったと言われていますが、長い歴史があるにもかかわらず、飼育放棄の際のセーフティー・ネットが不十分のように思われます。
首相官邸ネズミ捕獲長の猫のラリー君
さて、シティの店先で「招き猫」のカフスを見つけました。一説によると招き猫は、中国、唐代に書かれた荒唐無稽な随筆集「酉陽雑俎(ゆうようざっそ)」に出てくる、「猫が面を洗いて耳を過ぐれば即ち客至る」という記述に由来するそうです。すっかり日本文化に溶け込み、現在では海外にも輸出される招き猫ですが、右手で招けば金運、左手で招けば来客運が開けるとのこと。ただし、両方を欲張って両手を挙げると飼い主が「お手上げ」になるのでダメですよ。
招き猫のカフリンクス