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Sun, 24 November 2024

第258回 ロンドンで見かける書体[後編]

前号では欧州で初めて活版印刷に採用された漢字フォントが明朝体であり、そのため欧州から活版印刷術を導入した日本に明朝体の活字フォントが普及したことをお話ししました。また、欧州のローマン体が漢字の「とめ、はね、はらい」に似た文字の端の装飾、セリフを持つこともお伝えしました。しかし、英国の産業革命とその次にやって来た大衆消費社会の登場で、欧州の活字フォントは大きな変化を遂げていきます。

ローマン体から洗練されたフォントが生まれたローマン体から洗練されたフォントが生まれた

まず、15世紀に誕生したローマン体は、産業革命期に印刷技術が向上するにつれデザインが洗練化されました。細い線がさらに細くなり、右上がりだった文字が垂直方向に直りました。その良い例が英国で誕生したキャスロンやバスカヴィルと呼ばれる活字フォントです。威厳と安定感、そして上流階級の求める優雅な気高さを醸し出しています。たとえば「Q」の文字のテール。お習字のはらいと同様、文字の端が美しく伸びています。

19世紀ロンドンの壁の広告19世紀ロンドンの壁の広告

やがて19世紀の英国に大量消費社会が到来し、広告印刷が急増しました。街頭には広告の看板が目立ち、壁には宣伝ポスターが貼り出されました。ただ広告用の壁に税金が課せられたり、私有地でのポスター掲示が禁止されるようになると、広告板を掲げた馬車やサンドイッチマンがロンドンに登場しました。宣伝用の活字フォントは多くの人の視覚に即座に訴えることが求められ、自然と派手な装飾に彩られた太いものに変わっていきました。

ロンドンに登場したサンドイッチマンロンドンに登場したサンドイッチマン

そこでサンセリフという書体が誕生します。文字の太さが均一で、文字の端の装飾がありません。大衆消費社会においては、ローマン体の落ち着いた安定感や高級感よりも視認性と判読性が大事です。さらに20世紀以降、スピード化とデジタル化が急速に進むと、多くの人々に活字をじっくり読む時間がなくなり、瞬時に内容を理解できる活字が求められます。活字は読む時代から見る時代に変わり、サンセリフが普及しました。

英国を代表するギル・サンは鉄道標識や国営放送に英国を代表するギル・サンは鉄道標識や国営放送に

英国生まれのサンセリフには国営放送BBCや鉄道や地図に使われるギル・サン、ロンドン地下鉄やバスで使われるジョンストンがあります。実は2016年に在英日本人の河野英一さんがロンドン交通網のフォント、ジョンストンをニュー・ジョンストンというサンセリフに改良しました。路線図を携帯電話で見ることが増えたため、小さなデジタル画面でも視認性が落ちないようにしました。ジョンストンの特徴である小文字のiやjのドットが♦マークになっている点は昔と変わりません。歴史と活字の変化を調べるとおもしろいです。

ロンドン地下鉄とバスはニュー・ジョンストンロンドン地下鉄とバスはニュー・ジョンストン

寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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