第281回 大英博物館の「揺り籠から墓場まで」
皆さま、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。さて、今年の干支は巳です。脱皮を繰り返して成長する巳は不老長寿と強い生命力を象徴する動物として、また神様のお遣いとして崇められています。不老長寿といえば日英両国とも高齢化が進んでおり、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は日本が約3割、英国が約2割です。そして2050年には日本が4割、英国が3割に増える見通しだそうです。
寅七からの年賀状
長寿に関連して大英博物館の第24号室には「揺り籠から墓場まで」をテーマにした長さ14メートルに及ぶ錠剤の展示があります。英国人が一生の間に処方される錠剤は平均1万4000粒だそうで、この展示では英国人男性と女性の各々が服用した錠剤と人生の出来事の写真が時系列で示されています。また、これらの錠剤は医師による処方を受けたものだけで、栄養剤などを含めれば英国人は平均で4万粒を摂取しているとのこと
一生に服用する錠剤の量
錠剤の横にはその人の年齢が示されています。展示されている男性は76歳で逝去されましたが、66歳のときに錠剤の総量の半分7000粒に達していました。つまり、年齢の増加と共に薬の量が増え続け、人生残りの最後の10年間だけでそれまでの人生66年間に飲んだ錠剤の数と等しい数の薬を飲むという計算になります。人はまるで薬によって生かされているようで、改めて薬の持つ意味を考えてしまいます。
66歳が錠剤展示の真ん中に位置する
一方、同じ部屋の向かいには南米大陸アンデス地域に生まれた古代アンデス文明の生活品が展示されています。この地域は海洋、砂漠、高山、熱帯林からなる地球で最も豊かな自然が残ると同時に、自然条件が最も厳しい環境の一つといわれています。不老長寿の村が多いことでも有名なアンデス地域はトウモロコシや芋類、根菜類、ハーブの宝庫ですし、現代の不老長寿の食材として人気のヤーコンやアマランサスの原産地でもあります。
チチャを入れる鐙土器(大英博物館蔵)
展示されている生活用品には自然界の草花や動物、魚類をモチーフにしたものが多く、特に紀元前千年から紀元後千年に使われた鐙型土器が有名です。それは祭礼儀式に飲まれたチチャと呼ばれるトウモロコシの発酵酒を入れる容器で、注ぐと独特な笛のような音が出て、お酒と音を神様に捧げます。また、自然薬としてコカの葉を多く服用していることでも有名です。どんなに生活環境が厳しく医薬品がなくても、自然を敬い、自然と同化して生きるところに長寿の秘訣があるのかもしれません。
リャマのお守り(左)とコカの葉(右)(大英博物館蔵)
本年も皆さまにとって良い年になりますように。
寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。