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Sat, 07 June 2025

第291回 英国の有機化学と防水加工

6月の英国は晴天が続きますが、日本はレインコートが必要な梅雨の季節です。第283回「英国の石炭から生まれた高貴な紫色」でロンドン東部に住む少年ウィリアム・パーキンが当時の石炭の廃棄物コールタールからアニリン染料を発見したことをご紹介しました。実はその発見より少し前、スコットランドのグラスゴーでは科学者チャールズ・マッキントッシュがコールタールからレインコートを発明していました。

チャールズ・マッキントッシュ チャールズ・マッキントッシュ

1823年、マッキントッシュは偶然にもコールタールから精製された石油成分の一つ、ナフサがゴムを溶かすことを見つけ、さらにゴムの溶液を2枚の生地に塗って圧着させると防水布ができることを発見しました。早速、発明家のトーマス・ハンコックと手を組み、レインコート製造会社を英北部マンチェスター郊外に設立します。ところが当時の布は毛織物で羊毛の脂成分とゴムの相性が悪く、固くて重いゴムのコートになってしまいました。

防水布はゴム膜で水を防ぐ 防水布はゴム膜で水を防ぐ

そこでハンコックは改良を試み、43年にゴムに硫黄を加えることで、ゴム生地が伸び縮み自在になり、耐久性も防水性も高まることを実証しました。いわゆる加硫ゴムの誕生で、加硫ゴムを綿布に添加することで軽くて柔軟な防水コートができました。これがマッキントッシュ社のレインコートの誕生になります。さらに加硫ゴムは弾力性が高いのでゴム・ホースや輪ゴム、ゴム・バンド、靴のゴム底などさまざまな商品に応用されました。

加硫ゴムはさまざまな製品に応用された 加硫ゴムはさまざまな製品に応用された

ところが、上述のゴムは弾力性が強いものの耐久性の弱いブラジルのパラゴムノキを原料にしており、長持ちしませんでした。一方、19世紀半ばに英国東インド会社が東南アジアで発見した、マレーシア語でゴムを意味するガタパーチャという天然ゴムの木から採れる樹脂は、弾力性が弱いものの防水性と耐久性にとても優れていました。その結果この樹脂がレインコートのゴム生地のように満遍なく塗布された新しい防水器具が誕生します。

ガタパーチャの葉茎 ガタパーチャの葉茎部

45年、トーマス・ハンコックの弟チャールズ・ハンコックがガタパーチャ社という防水器具製造会社をロンドン北部イズリントンに設立しました。ガタパーチャ社は電線の被覆材や海底通信ケーブルを製造するようになり、51年にはドーバー海峡に世界で初めて敷設された海底通信ケーブルを製造しました。その後、英国には海底ケーブル製造会社が次々と誕生し、世界中の海底通信ケーブルの3分の2を英国製が占めました。そう、大英帝国の繁栄を水面下で支えたのは海底通信ケーブルでした。有機化学の発展は世界を大きく変えていきました。

かつての海底ケーブル工場 かつての海底ケーブル工場

現在のイズリントン工場跡 現在のイズリントン工場跡

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シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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