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Sun, 22 December 2024

英国の
愛しきギャップを
求めて

英国に暮らして20年。いまだに日々のあらゆる場面で「へー」とか「ほー」とか「えー」とか言い続けている気がします。住んでみて初めて英国の文化と人々が、かくも奥深いものと知りました。この連載では、英国での日常におけるびっくりやドッキリ、愛すべき英国人たちの姿をご紹介したいと思います。


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傘を差すのはポッシュな人?

傘を差すのはポッシュな人?

「英国の人々は雨でも傘を差さない」。この国に住む前、こう聞いたことがありました。英国はいつも天気が悪く、雨が多いという印象だったので、「雨がよく降るのに傘を差さないとは、いったいどういうことなのだろう?」と疑問に思っていました。

2週間ほど前のこと、「ただいま~ !」と、玄関のドアを開けて学校から帰ってきた子どもたちはびしょ濡れでした。ちょうど下校時間に、英国では珍しいどしゃぶりの雨が降っていたからです。日本でなら学校に「置き傘」をすることもあると思いますが、ここではそういったシステムはありません。その上、わが子たちも含め、朝から雨が降っていても、学校に傘を差してくる人はほとんどいないそうです。

子どもだけでなく、英国では大人でも傘を差さずに雨の中を歩いている姿をよく見かけます。つまり冒頭の言葉通りだったというわけですが、大抵の場合には、傘を差していない人々はレイン・コートやフード付きパーカーを着て雨をしのいでいます。暮らしてみて分かったのですが、英国では霧雨が多く、それも横向きに降るため、傘を差していても雨粒を避けることができません。そんな風雨のために、脆弱な作りの折り畳み傘がたて続けに2回壊れた後には、私も傘を差さずにレイン・コートだけで出掛けることを選ぶようになりました。

とはいえ、この国に住む人々が傘を全く使わないわけではありません。歴史的には英国で傘が使われ始めたのは1700年ごろからです。当時のそれは女性たちが日除け用に使用していたパラソル。英国紳士で初めて雨傘を使用したのは、ポーツマス生まれの慈善家ジョナス・ハンウェイが最初で、1750年代でした。当初は「男性が傘を差すなんて」と嘲笑されたそうですが、ハンウェイの亡くなった1780年代には傘を使用する人が増えていました。ロンドンには1830年から続く、ジェームズ・スミス・アンド・サンズという、欧州一古いといわれる傘の老舗専門店が今も営業していますが、そこで扱われる傘を見ると、かつての英国紳士たちは雨傘にこだわりを持っていたのだということが伝わってきます。


こだわりをもつどころか、傘を持たない人も多くなった現代の英国で、傘を差す姿がすぐに思い浮かぶ人物といえば、エリザベス女王。女王は1956年にロンドンのイーストエンドで創業されたフルトン社の傘を愛用しています。それは「バードケージ」と名付けられた、鳥籠のような形をしたビニール傘。毎回、傘の柄と縁取りの色を女王の服に合わせたカスタムメイドです。

英国では、昔も今も、傘にこだわるのはポッシュな人たちの特権なのかもしれません。

 


マクギネス真美マクギネス真美
英国在住のライフコーチ/編集者/ライター。2003年渡英。英国の食、文化、人物、生活などについて多媒体に寄稿。音声メディアVoicyパーソナリティー。英国人の義母に習い英国料理の研究もしている。
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