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Sun, 22 December 2024

NHS 現役看護師が語るコロナ時代の医療

本記事に掲載の内容は執筆者個人の見解であり、組織の公式的な見解を示すものではありません。


ピネガー由紀
ピネガー由紀
大学病院で働く現役NHS看護師、フリーの医療通訳者。日本での看護師経験はなく、成人してから義務教育(GCSE)を経て、2013年マンチェスター大学看護学部卒。正看護師として、外科部門で病棟、手術前アセスメント、入院管理、学生指導などを担当。2020年4月から感染状況により新型コロナウイルス感染病棟に招集をされている。自身のYouTubeチャンネルでは医療英語や看護師の日常を発信。
YouTubeチャンネル:イギリス現役看護師Yuki

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コロナ病棟に招集されたあの日

皆さん初めまして、コラムを執筆させていただきますピネガー由紀と申します。日本での看護師経験も免許もなく、成人してから英国で義務教育(GCSE)から始めて看護師免許を取得しました。この連載では看護学生時代に叩き込まれたNHSの医療と、卒業後7年間の医療現場で経験してきた現実を基に、NHSスタッフの奮闘やその内側をお伝えしていきたいと思います。私が看護学生としてNHSの病院に出入りするようになったのが約10年前です。この間さまざまな出来事をくぐり抜けてきましたが、やはり今回の新型コロナは医療従事者としても未知のものでした。

そこで今回は2020年3月、最初のロックダウンを前に、国からの指示でNHS(国民医療制度)がどのように新型コロナへの準備態勢に入っていったかを振り返ってみたいと思います。

2020年の3月下旬、勤務先である大学病院の外科部門が突然閉鎖になり、スタッフは全員コロナ前線医療に駆り出されるとの通告を受けました。ある程度覚悟はしていたものの、いざ直面すると誰もが動揺を隠せず、私は家族への申し分けなさがこみ上げてきました。大量の新型コロナ患者の入院に備えた国からの指示は、「不急部門を閉鎖もしくは極力縮小して、浮いたスタッフとベッドをコロナ感染対応に回すこと」、「当面は急を要さない手術の全面中止」などです。特に大量のICU(集中治療室)患者に対してICUスキルを持つ看護師は絶対数が不足していました。そこで対処法として考えられたのが、同等のスキルを持つ手術室看護師をICUに送り出すこと。そのために手術室は真っ先に稼働縮小が始まりました。

この結果、膝や白内障などに代表される待機手術*は、最初に中止が決まりました。これらは手術を受けるまでに待つ期間がもともと長いことは周知の通りです。やっと回ってきた自分の手術が中止、再開のめどは未定となり、多くの患者さんが動揺していました。特に私の本業はpre-operative assessmentと呼ばれる手術前の事前準備の部署で、このような患者さんの対応に当たりました。

ほかの部署も準備が整い次第、閉鎖、縮小をして医師、看護師が続々とコロナ医療の前線に送られていきました。基本的にNHSの職員は契約にない限り、業務命令に配置転換はありませんが、今回は本人の意思とは関係なく業務通達され、健康上の理由があるスタッフを除きほとんどがこれに従いました。

4月上旬、ついにコロナ病棟での初仕事を迎えましたが、チームにコロナ病棟の「本業」である内科出身の医師、看護師は半数もおらず、残りは眼科、歯科、整形外科、外来、遺伝子治療科などから来た「院内の寄せ集めチーム」。お互いに笑い合うしかありません。でも、寄せ集めチームならではのメリットはあります。感染へのリスク、自分の本業以外の分野で仕事をする不安、それを最も理解できるのはチームの仲間です。「内科での知識や経験不足を突つき合うのではなく、お互いで補い合いましょう」、そんなムードです。良いチームワークは患者さんへも確実に良い影響を及ぼします。

このような理由で私にとってコロナ医療は辛い経験だけではなく、貴重な体験の場ともなりました。あれから早くも1年、状況は変わってもNHSスタッフの奮闘は続いていきます。

*事前に患者への検査や説明を十分に行い計画的に行われる手術のこと。術中や術後の対処方法など、患者と密なコミュニケーションが取られる

 

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