仕事のため、学業のため、そして結婚のため ── 日本から英、独、仏にやって来た理由は、十人十色。でも、これまでとは全く違う景色や人々の中で暮らす毎日には、きっと、思わずレンズを向けてしまいたくなるかけがえのない瞬間が、誰にでもたくさんあるのではないでしょうか。英・独・仏ニュースダイジェスト主催、フォトコンテスト2011。今回は、ヨーロッパ3カ国から集まった、そんな貴重な人生の欠片、計300点以上の応募作品の中から選ばれた受賞作を、受賞者、審査員のコメントとともにご紹介します。
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「うちにはそんなオモチャない……」
受賞者:榊原 有一さん(27歳)
この写真は、5月にデボン州(英西南部)を訪れた際の道中で撮影したものです。窓越しの景色を撮ろうとカメラを構えていると、前の席の男の子が隙間から顔を覗かせ、物欲しげにカメラを見つめていたので、一枚撮ってあげました。お腹がすいていただけだったのかもしれませんが、撮った写真を見せてあげると、にっこりと笑ってくれました。それだけで、素敵な気分で一日を過ごせたことを覚えています。タイトルは、日本語を勉強している台湾人の友人のアイデアを採用しました。「うちにはそんなオモチャない……」という言葉の、日本語を母国語としていない人ならではの無垢な響きが、カメラという魔法の箱への憧れを子供の目線から言い表しているようで、ぴったりだと思ったのです。
この作品の素晴らしさは突出していましたね。背景に見える列車のライン、窓に反射した子供の顔、そして何を考えているのかがありありと伝わってくる子供の表情 ── 見た瞬間、すぐに惹かれました。被写体の男の子は、きっと何時間もこうして座っていたのでしょう。「一体いつまで乗っていなきゃいけないんだろう」といった風に、明らかに退屈している表情が良く出ています。撮影者は本格的に写真を学んだことがないそうですが、撮影に対する「生まれ備わったセンス」を持っているのかもしれませんね。もし、アドバイスを提供するならば、シャッター・スピードをやや遅めにして背景をブラし、木々が流れゆく様を見せるようにしても面白い作品になるかもしれません。 by Canon Europe
「雲の絨毯」
受賞者:石川 佳里奈さん(11歳)
選ばれたときには、とてもおどろきました。そして、「大賞」に選ばれたということが分かってすごくうれしくて、信じられなかったです。写真は8月24日、父の誕生日に撮りました。4階に住んでいる私たちの家のキッチンの窓から、あのような空が見えたので、急いで扉を開けて撮りました。あんな夕焼け雲、見たことがなかったし、色がとてもすてきだったので、絶対消えてほしくないと思いながら撮りました。写真を撮るのは、とても好きです。旅行へ行っても、自分のカメラで必ず撮ります。きれいな風景を撮って、家に帰ってから見るのが好きです。大賞でいただくデジカメで、ロンドンや海外の夜景を、上手に撮ってみたいです。
大賞作品は、色彩の美しさと、構図のユニークさが際立っていました。通常、空の写真を撮るとなると、地平線を真ん中辺りに置くことが多いのですが、この作品では地平線の位置がかなり下になっています。こうすることで、結果的に美しい雲の模様と色が作品の大部分を占めることとなり、功を奏しているように思います。写真上達のコツとしては、お子さんの場合はとにかくたくさん撮ることがポイントです。今の時代はデジタルカメラで写真を撮ることが多いので、失敗を恐れる必要もありません。受賞者はカメラに対する「良い目」を持っていると思います。まずは自分が好きなものを撮ることから始めて、何でもどんどん撮ってみてください。 by Canon Europe
「Driving in River Thames」
受賞者:藤田 愛さん(27歳)
9月初旬の金曜日の午後に、オックスフォード(英南東部)の市街地から程近いテムズ河沿いを夫とサイクリングしていました。馬や牛が水辺に集まるのどかな風景を楽しんでいたら、突然、河に黄色の水陸両用車が出現、走り去っていったのです。一瞬の出来事だったので、自転車にまたがったまま、シャッターを切るのに必死でした。のどかな風景と、車の色とスピード感のコントラストが気に入っています。今回の受賞で、私が住むオックスフォードの風景がたくさんの人の目に触れることを、うれしく思います。
牧歌的な風景の中に突如現れたオープン・カー。道路ではなく河の中を走っているため、背景とのギャップが目を惹きます。夏の終わりの晴れ渡った空の下、勢いに任せて河に突入したのでしょうか。しかし河岸で戯れる馬も、河面に浮かぶ鴨も、車に驚く様子も、逃げる気配も全くなく、自分たちのペースを守っている。恐らくこの後、ドライバーはここが自分たちの居場所ではないことを思い知らされ、そそくさと河を出て行ったことと推測します。そう想像すると、滑稽さも感じられる作品だと思います。 by Buckinghamshire Golf Club
「お花見」
受賞者:村井 喜一さん(37歳)
一眼レフを使い始めてまだ1年という「一眼初心者」ですが、今回、入賞に選ばれたということで、大変うれしく思います。撮影をしたミュンヘン・オリンピック公園には桜の木々があり、4月上旬に友人と訪れたのですが、たまたま目の前にいた2匹の犬があまりに行儀良くお花見をしている姿が面白くて、思わずシャッターを切りました。普段から休日にはカメラを持ち歩き、印象的なシーンを見つけた際には、ためらわず撮るようにしています。一眼レフだけでなく、iPhoneでもよく撮影しています。
パッと見ただけで心がほんのり温まる、ほのぼのとした写真ですね。ドイツの長くて寒い冬が終わり、ようやく来た春を喜ぶ人々の気持ちが伝わってきます。2匹の犬はカップルか、または兄貴と弟分といったところでしょうか。きっと飼い主同士の仲が良く、この犬たちも散歩中によく顔を合わせるうちに、仲良くなったのでしょう。2匹の間で交わされるコミカルな会話が聞こえてきそうです。また、満開の桜と写真右上に収められたBMWの本社ビルが、日本とドイツの友好を象徴しているかのようで素敵です。 by MARITIM Hotel Frankfurt
「ポンポン対決」
受賞者:繁田 ゆかりさん(29歳)
8月のバカンス中に、主人の実家のあるトゥールーズ(仏南西部)に近いターンで義姉と撮影したものです。出産を間近に控えた義姉と、妊娠8カ月の私。長いようであっという間に過ぎてしまうマタニティー・ライフやその喜びを思い出として残したいと思い、撮りました。普段から、自然で何気ない日々のシーンを撮影しています。今回はまさか賞をいただけるとは思わず、信じられない気持ちでいっぱいです。母になる喜びの詰まったこの写真で賞をいただけることを光栄に思うと同時に、誇りに思います。
受賞、おめでとうございます。母になる日が間近に迫ったお2人の喜びが伝わってくる作品だと思います。白黒写真ですが、夏の太陽に照らされて、人物が明るく、生き生きと健康的に写っていますね。光と影のコントラストから、温度までも観ているこちらに伝わってくるようです。出産は人生の一大仕事。出産までおいしいものをたくさん召し上がって、ゆったりした気持ちでその瞬間に臨んでください。元気なお子さんの誕生を期待しています。 by Hanawa
「しあわせの場」
受賞者:小林 七菜さん(10歳)
受賞のお知らせを聞いて、一番に「大好きなマカロンがもらえる!」と思いました。二番目に感じたのが「やったぁ、入賞だ!」といううれしさです。家族皆が応募して、私が入賞しました。この写真は、タイン・アンド・ウィア(イングランド北東部)にある家の近所で撮りました。英国に引っ越して10カ月が経ちました。ロンドンも素敵ですが、私にとっての英国の「素敵な風景」はこれです。ちょうど良いイスとテーブルがあり、手の届きそうな所にお花があり、晴れた日にお茶すると気持ち良さそうだからです。
2脚の椅子と、花々の醸し出す柔らかい色味の調和が、この空間が真の幸せの場所であることを表していると思います。見ている私たちも、とある晴れた日曜日の午後、または長い一日の終わりに、椅子に座ってお茶を飲みながら、地平線にゆっくりと沈んでいく太陽を眺めている自分たちの姿を思い浮かべることができます。そんなとき、私たちの心は、温かい気持ちと充足感に満ちていることでしょう。この作品は、幸せな時間を過ごしたぬくもりと穏やかな記憶を、いつでも呼び起こしてくれるはずです。 by Pierre Hermé Paris
「大好きなバイオリン」
受賞者:牧 達也くん(5歳)
普段からカメラを持ち歩くようにしており、息子は気に入ったものを見つけては、カメラを手に取って写真を撮っています。この写真は、息子がバイオリンを始めて1カ月弱が経った6月に、大好きな自分のバイオリンを撮影したもの。今年5月にミュンヘン(独南部)に来ましたが、以前から音楽が大好きだった息子は、当地でバイオリンを習い始めました。初めて本物のバイオリンに触れたときは大喜びで、それから毎日楽しく練習しています。「僕のバイオリン、見てね。先生、ちゃんと練習しているよ(達也)」。
机の上に置かれたバイオリンと弓、そして下の方に目をやると、そこにはちょこんと写った小さな足先 ── なかなか考えさせられる構図だと思います。このバイオリンの持ち主である撮影者はひょっとして、「ちょっと足で弾いてみようかな」なんて考えているのでしょうか。 それとも、恐らくいつもそうしているように手で弾こうと思っているのでしょうか……? このバイオリンをどんな気持ちで見つめ、カメラに収めたのか、観ている方の想像力を掻き立てられる、絶妙なショットですね。 by Steiff
「初めて捕まえたセミ」
受賞者:柴田 かりんさん(11歳)
この夏、静岡にある父の実家に行ったときに撮った写真です。生まれて初めて、自分の手で捕まえたセミでした。羽根が半分欠けていたので、うまく飛べなかったみたいです。写真はうまく撮れたと思ったけれど、飛べないセミがかわいそうでした。普段はコンパクト・カメラで、かわいい置物や、景色などを撮っています。旅行のときに、一番たくさん写真を撮ります。コンテストで受賞したのは初めてなので、すごくうれしいです。これからも、いっぱい写真を撮っていきたいと思います。
この作品は、木の上に登って撮った写真なのでしょうか。セミにおしっこをかけられないように、そーっと近づいて、必死に木にしがみつく撮影者の姿が目に浮かびます。ごつごつした木はどんな感触だったのでしょう。 夏の日差しに照らされて、温かったのでしょうか、それとも木陰だったために、ひんやりと心地良かったのかもしれません。立派な木の幹に対して、その木に止まったセミの羽が少し破れている辺りに切なさを感じてしまいますが、その分、臨場感があり、自然の厳しさが出ていると思います。 by Paris Miki
[審査員総評]
全体的に見て、非常にクオリティーの高い作品が集まったと思います。今回は英国、ドイツ、フランスの3カ国から作品が集まったわけですが、それぞれの国や地域の象徴的な建物や景色が被写体となっているものがいくつかみられたという点以外で、構図などに国ごとの違いが如実に表れるということはなかったように感じられました。部門別では、ポートレート写真を撮るときには、やはり人物の一瞬の表情をカメラに収めようと考えるためか、急いでシャッターを押す傾向があるように思います。それと比べると、風景写真は、じっくりと考えて撮ることができるので、構図などが練られたものが多かったのではないでしょうか。今回のマチュア部門の大賞作品は、ポートレートでありながらも、人物の表情のみならず、全体の構図に工夫が感じられました。キッズ部門に関しては、それぞれ個性を感じさせる作品が多く、マチュア部門と比べて選考が難航しました。
by Canon Europe
[ダイジェストからのコメント]
今回は、英・独・仏ニュースダイジェスト主催フォトコンテスト 2011にご応募をいただき、誠にありがとうございました。結果、英国112件、ドイツ104件、フランス96件、合計312件という、数多くの個性的で素敵な作品が集まりました。
当選までの流れとしましては、まずはニュースダイジェスト社内で一次選考を実施。各国各部門10点の作品を選んだ後に、各国審査員による最終選考が行われ、受賞作品が決定しました。
通勤途中や日常の何気ない景色を新鮮な視点で切り取った風景作品、普段とは違う、大人びた表情を見せたお子さんの貴重な成長の一瞬を捉えたポートレート作品、既成観念の枠に捉われないユニークさが光ったキッズ作品など、どの部門でも目を奪われるものが多く、どれを選ぶべきか迷ってしまうという贅沢な悩みを抱えながらの選考となりました。一点、キッズ部門では、親御さんがお子さんを撮影した写真を応募されたというケースがいくつかみられ、残念ながら審査対象外とさせていただきましたことを付け加えさせていただきます。
最後になりましたが、ご応募いただいたすべての参加者の方々及び審査員の皆様に、改めましてお礼を申し上げます。
[受賞者と賞品]
マチュア部門 | ||
大賞 | 榊原有一さん | Canon Europe より デジタル一眼レフ カメラEOS 60D |
英国入賞 | 藤田愛さん | Buckinghamshire Golf Clubより ゴルフ+ペアお食事券 |
ドイツ入賞 | 村井喜一さん | MARITIM Hotel Frankfurtより 2泊3日ダブルルーム宿泊券ペア1組 |
フランス入賞 | 繁田ゆかりさん | レストランHanawaより 献立コース、ペアお食事券 |
キッズ部門 | ||
大賞 | 石川佳里奈さん | Canon Europe より コンパクトデジタルカメラ PowerShot A3200 IS |
英国入賞 | 小林七菜さん | Pierre Hermé Parisより Initiation Boxマカロン20個詰め合わせ |
ドイツ入賞 | 牧達也くん | Steiffより オリジナルぬいぐるみ |
フランス入賞 | 柴田かりんさん | Paris Mikiより Ray Ban Juniorのサングラス |