ケジャリー
Kedgeree
「日本人だから朝ご飯はライスのほうがいい? だったら明日はケジャリーを作ってあげますよ」。渡英して1年足らずの頃、一人旅で訪ねたライ。そこで宿泊したB&Bのオーナー、スーは、私が宿に到着した日、こう言ってくれました。庭でたくさんのバラとハーブを育てている穏和な彼女が、初めての日本人客に精一杯のもてなしをしてくれようとしていたことはよく分かりました。
「ケジャリー」を知らない私はさっそく電子辞書をチェック……といっても綴りも分からないので、スーに教えてもらい、'kedgeree'と打ち込みました。でも、残念ながら和訳は出てきません。「辞書にも載っていない食べ物か〜」という私の不安を感じとったのか、スーは「ライスと魚にカレー・パウダーを混ぜたものです。寿司はライスと魚でできているのでしょう?」と、寿司が好きな日本人はケジャリーも好きなはず、と言いたげでした。
そのケジャリーとは、もともとインドで食べられていたレンティル(レンズ豆)とお米を一緒に炊いた料理で、現地ではキチャリ(khichari / khichri)と呼ばれるもの。インドでこの料理が朝食として食べられていたと14世紀前半の書物に既に記述されているそうですが、英国に入ってきたのは、インドが英国領だった時代の19世紀。つまりこの料理は「大英帝国の遺物」の一つというわけです。現在のレシピでは、レンズ豆の代わりにくん製した白身魚と固ゆで卵、カレー粉と炒めた玉ねぎが加えられ、英国流にアレンジされたものになり、朝食以外にもランチや軽めの夕飯として食されています。
ところで私がB&Bでいただいたケジャリーは、お皿からあふれんばかりのボリュームで(いかにも英国!)、かなりクリーミーな「黄色い雑炊」といった感じの食べ物でした。入っている白身魚(ハドックを使うのが一般的と言われますが、この段階ではコッドだったかハドックだったかは不明)の匂いが若干鼻につくのもあって、半分も食べないうちにギブアップ。せっかくのスーの親切に応えられなかった罪悪感で「お腹がいっぱいになったので、残してしまってごめんなさい」と、何度も「ソーリー」を繰り返したのを覚えています。
その後、ケジャリーからは遠ざかっていたのですが、ロンドンに住む日本人の知人のところで食べたものがそのイメージを一変してくれました。ランチ時、「なんちゃってケジャリーだけど」といって彼女が出してくれたのは、鯖のくん製を使った「カレー・チャーハン」風のもの。これに思いきりレモンを絞りかけると、魚臭さも気にならず、完食どころかお替わりまでしてしまいました。
有名シェフたちのレシピを調べてみると、ケジャリーにはリゾット風のウェット・タイプとピラフ風のドライ・タイプがあります。読者の皆さんはどちらがお好みでしょう?
簡単なんちゃってケジャリー(3〜4人分)
材料
- バスマティ・ライス(炊く前の米の分量) ... 180g
- 鯖のくん製(smoked mackerel) ... 200g
- 玉ねぎ ... 1個
- バター ... 大さじ1
- ゆで卵 ... 3個
- カレー粉(辛さはお好みで) ... 小さじ2杯
- サルタナ(レーズン) ... 20g
- イタリアン・パセリ ... 適量
- 塩・胡椒 ... 適量
- レモン ... 1個
作り方
- 鯖の皮と骨を取って細かくほぐす。
- フライパンにバターを溶かして、みじん切りした玉ねぎを透き通るまで炒める。
- ❷にカレー粉を入れて炒め、さらにライスを加えて炒める。
- ❸に鯖とサルタナを加えて炒め、塩・胡椒とレモン果汁で味を整える。
- ❹を皿に盛りつけ、ゆで卵、刻んだパセリ、くし形に切ったレモンを添えて出来上がり。
memo
女優ジュディ・ディンチのお気に入りの朝食としても知られるケジャリー。
卵については固ゆで卵を使うレシピが大半ですが、ポーチ・ド・エッグを載せるレシピもあります。