ホット・クロス・バンズ
Hot Cross Buns
「いい匂いですね。朝食は食べてきたのに、またお腹がすきそうです」。
キッチンのライトを修理にきてくれた電気屋さんが、家に入ってくるなり言いました。「紅茶と一緒にどうですか?」と勧めると、「ありがとう」と言うので、電気ケトルでお湯を沸かすのと同時に、半分にスライスした「ホット・クロス・バンズ」を2つ、トースターに入れました。
スパイシーなシナモンとまったりとした甘い香りの混ざった空気がキッチン中に充満します。この匂いをかいだら誰だって食べたくなるよね、と思いながら、既にトーストしてあった分にバターをたっぷりとつけました。
伝統的には「グッド・フライデー」と呼ばれる、復活祭前の金曜日に食されていたもの。カランツ(干しぶどう)に、オレンジやレモンのドライ・ピールが入ったパンです。オールスパイス(またはシナモン)の風味が利いていて、ちょっぴり甘く、「つやつや、ふっくら」の容姿。上についた十字架(クロス)が特徴です。あまりのおいしさゆえか、今ではほぼ一年中、スーパーのベーカリー・コーナーで見掛けます。でもやはりスーパーの入り口に山積みされるのは、イースターの時期。
スーパーのウェイトローズが発行しているフード雑誌でも、イースター特集号の表紙は、ぷくぷくとしたこのバンズが並んでいました。そして記事では「ホット・クロス・バンズのないイースターなんてイースターじゃない」とまで。
英国でこれをグッド・フライデーに食べるようになった起源は、ハートフォードシャーにあるセント・オールバンズにあると言われています。セント・オールバンズ大聖堂によれば、ここの修道士が、1361年のグッド・フライデーに、貧しい人々にパンを分け与えたのが始まり。とはいえ、サクソン人がエオストレ(Eoster)と呼ばれる春の女神を敬い、パンに十字の印をつけたものを食べていた、という説もあり、クロスのついたパン自体の歴史は14世紀以前からあったようです。
さて、その十字型の作り方について。現在のレシピでは小麦粉に少量の水を混ぜたものを絞り袋に入れてパイピングする、というのが一般的です。しかし、セント・オールバンズ大聖堂では、ナイフで十字に切り込みを入れるのが正当としています。また、20世紀の英国家庭料理に多大な影響を与えた料理研究家・フードライターのエリザベス・デービッドも、その著書「English Bread and Yeast Cookery」で、わざわざストライプを別に作る必要はなく、ナイフで十字に切るだけで十分、と言っています。
私自身は、香ばしい色のパンにクリーム色の十字が浮き上がったモダン・バージョンの見た目が気に入っていますが、手作りするならばナイフで切るだけの方が楽なのは確かですね。
ホット・クロス・バンズの作り方(12個分)
材料
- 強力粉 ... 500g
- 牛乳 ... 300ml
- カスター・シュガー ... 75g
- 塩 ... 小さじ1
- インスタント・イースト ... 10g
- バター ... 50g
- 卵 ... 1個
- カランツ(サルタナでも) ... 150g
- ミックス・ピール ... 80g
- オールスパイス(シナモンでも) ... 小さじ2
- アプリコット・ジャム ... 小さじ2
- 小麦粉 ... 70g
- 水 ... 適量
【十字飾り用】
作り方
- 強力粉、カスター・シュガー、イースト、バター、塩、卵をボウルに入れ、人肌に温めた牛乳を少しずつ加えて混ぜる。
- 打ち粉をした台の上で❶の生地を柔らかく表面が滑らかになるまでよくこねる。
- サラダ油を塗ったボウルに丸くまとめた❷を入れ、濡れぶきんをかけて2倍の大きさになるまで発酵させる。
- 2倍の大きさまで発酵した生地にカランツ、ミックス・ピール、オールスパイスを混ぜ、よくこねる。
- ❹をボウルに入れて1時間ほどさらに発酵させたあと、生地を12等分して丸型血を作り、ベーキング・トレイに並べて全体にビニール袋をかぶせる。それが2倍の大きさになるまで発酵させる。
- 12等分した生地の上に十字の切り込みを入れる。小麦粉を水で溶き、絞り袋に入れて切り込み部分にパイピングをする。
- 220℃に余熱したオーブンで20分ほど焼く。
- アプリコット・ジャムに少量の水を加えて温めたシロップを焼き上がったバンズに塗って出来上がり。