トリークル・タルト
Treacle Tart
英国のお菓子を食べた時、甘すぎて完食できなかった、という経験のある方はいませんか。舌がすっかり英国食になじんだのか、最近ではあまりそういうことのない私ですが、渡英したばかりの頃は、英国のケーキ類を食べるたびに、ボリュームの多さと同時に、その強烈な甘さにもいちいちびっくりしていました。
そんなことを思い出したのは、ゴールデンウィークに3泊5日の弾丸旅行で日本から遊びに来てくれた友人が、カフェで注文したトリークル・タルトを「おいしい」と言いつつも、甘過ぎるからと残してしまったのを見たからです。
タルト生地の中に、パン粉とゴールデン・シロップとレモン果汁を混ぜたフィリングを詰めて焼き上げたこのお菓子は、英国にいくつかある他のお菓子と同様、日が経って硬くなってしまったパンを再利用できる節約デザートとして考えられたものかもしれません。シンプルなだけに、その甘さが余計印象に残りますが、砂糖は全く入っておらず、その甘みは全てゴールデン・シロップによるものです。
英国生まれのゴールデン・シロップは、サトウキビから砂糖を作る精製過程で副産物としてできる金色の甘い液体のことです。見た目には軟らかいべっこう飴のようなこの液体を、スコットランド出身の商人エイブラム・ライルが1881年に商品化したものです。なので、このシロップがたっぷり入った現在の形のトリークル・タルトが生まれたのは、ゴールデン・シロップが発売され出した以降と考えられます。ただし、トリークル・タルトという名前の食べ物自体はそれ以前から存在していたようで、それにはブラック・トリークルと呼ばれる、黒色の糖蜜が使われていたのではないかと考えられているようです。また、現在でも、トリークル・タルトにはゴールデン・シロップだけでなくブラック・トリークルを加えるのが正統、という意見もあるようですが、誰がそれを言い始めたのかは不明です。
ところで、トリークル・タルトのレシピを調べてみると、その種類の多さに驚きます。パン粉とゴールデン・シロップとレモン果汁という3要素は同じとはいえ、その分量の組み合わせの違いや、さらには卵やクリーム、アーモンド・プードルを加えるものなどを合わせると、レシピのアレンジは無限大とも言えそうなほどです。
英国人が子供の頃に食べていたと懐かしがる、薄っぺらくて、頭痛がしそうなほどにシロップが多めのタイプ。パン粉をやや多めにして、ねっとり感を残しつつも、パン粉の「しっとり&ふんわり」という質感を感じさせるタイプ。中身にクリームと卵を加えるタイプ。3つを試した我が家ではパン粉多めのややしっとりタイプが好評でした。白いパンか全粒粉かなど、使うパン粉によっても味わいが変わります。皆さんの好みはどれでしょう? 作り方はとても簡単なので、ぜひ自分好みのレシピを見つけてみてください。
トリークル・タルトの作り方(直径20センチの型1つ分)
材料
- ショートクラスト・ペストリー(市販のもの) ... 230g
- パン粉(少し日にちの経ったパンをフード・プロセッサーなどを使って細かくしたもの) ... 120g
- ゴールデン・シロップ ... 240g
- レモンの皮(すりおろし) ... 小さじ1
- レモン果汁 ... 1/2個分
作り方
- ショートクラスト・ペストリーを麺棒で2ミリほどに伸ばしてパイ型に敷き、ところどころにフォークで穴を開けて、冷蔵庫で15分ほど冷やす。
- パン粉、ゴールデン・シロップ、レモンの皮、レモン果汁をボウルに入れてよく混ぜる。
- ❶のパイ生地の上にベーキング・ペーパーを載せ、上にベーキング用重石を載せて190℃に予熱したオーブンで15分ほど焼く。その後、いったん石とベーキング・ペーパーを取り出して、さらに10分ほど焼く。
- ❸に❷のフィリングを加えて、190℃のオーブンで25~30分ほど焼く。パイ生地がきつね色になり、フィリングが固まったら出来上がり。
memo
友人が食べたタルトにはクロテッド・クリームが添えられていましたが、ダブル・クリームやカスタードを添える人もいます。私はバニラ・アイスクリーム派です。