英国で働いている日本人とその家族は大したものだな、とつくづく思うことがあります。会社の命令で母国を離れ、(場合によっては嫌々ながら)海外で仕事をすることは大変な試練に違いありません。
にもかかわらず、駐在員は赴任先の習慣や文化についての事前研修を受ける機会がないか、「現地に着いてからやればいい」とする傾向があるようです。しかし、英国に来た途端に後任者からの引継ぎ業務などで忙しくなり、加えて本社からのプレッシャーもあるため、現地で異文化研修を受ける機会を逃してしまいます。これは非常に残念です。
また逆に、英国人も駐在員の苦労を意識していないことが多いように思われます。それは無理もないでしょう。自分自身が海外で仕事をした経験がない英国人にとって、ホームシックの気持ち、母国に残された家族や親の健康の心配、英国の食生活への適応などに共感することは難しい。しかも、日本人は英国生活に関する悩みがあっても、それを英国人の同僚に話すことは少ない気がします。日系企業の人事部に、日本人と英国人がお互いの不安を話し合う、分かち合う場を設けることをお勧めします。
私を笑わせた話をご紹介しましょう。某日系企業の英国支店に赴任してきたある日本人駐在員は、自分の子供が入る学校を自分で見つけなければなりませんでした。一生懸命探した結果、その駐在員はある日、うれしそうに私にこう報告しました。「良い所を見つけた! 僕らみたいな『トラベラーズ』を毎年、数人受け入れる学校だ。日本人駐在員の子供にはもってこいの学校ではないか」と。私は、いや、学校の案内書に記載されている「トラベラーズ」の意味は違うよ、と説明しなければなりませんでした。
一方、日本に派遣される英国人も楽ではありません。2003年ごろ、私はある大手電機メーカーで日本本社へ長期派遣される英国人スタッフのサポート業務に携わっていました。そこで印象に残るエピソードは以下のようなものです。ある時、東京に着き新しいアパートへ入居したばかりの英国人同僚から、突然電話が掛かってきました。風呂場で赤いランプが点滅しており、警告音が出ているから、同僚と奥さんは慌ててアパートの外へ避難しているとのこと。「怖い。風呂場のボイラーみたいなものが爆発しそうだ」と不安そうな口調で。そのボイラーと思われるものが発する音を、英国にいる私が携帯電話を通して聴いてみたら、なんとただのお湯張りメッセージでした。異国で仕事をすると、思わぬ苦労が尽きませんね。
駐在員の心理状態は職場の雰囲気を左右します。うまくいっている日系企業は、駐在員の生活が安定しており、仕事に専念できる環境が整っているというのが私の実感するところです。不安、悩みに限らず、英国生活において知りたいことがあれば、積極的に英国人の部下や同僚に相談すると良いでしょう。日本人の上司にものを尋ねられるということは、自分の意見が尊重され、信頼されているという気分を英国人スタッフに抱かせます。強いては、業務上の人間関係の向上にもつながるでしょう。
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