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Sat, 21 December 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

男女の賃金格差でBBC中国編集長が抗議の辞任

皆さんの中で、昨年末の時点でBBCの女性記者キャリー・グレイシー氏の名前を知っている方はいらしたでしょうか。私自身、しっかりと名前を覚えたのは今年に入ってからです。ただ、中国からのリポートによく登場する、非常に現地の言葉に流暢なジャーナリストがいることには気付いていました。かつてはボブのヘアスタイルでしたが、今はショート。眼鏡をかけていることも多く、精力的に中国各地を飛び回っている姿が印象的でした。4年前から、グレイシー氏はBBCの中国編集長を務めてきました。

彼女の名前が英国で全国的に知られるようになったのは、1月8日です。前日、自身のブログに「BBCの視聴者へ」と題された公開書簡を投稿し、男女の賃金差に抗議するために中国編集長を辞任したと宣言したのです。

グレイシー氏が自分の給与に大きな疑問を持つようになったのは、昨年7月です。BBCは年間15万ポンド(約2260万円)以上の報酬を払っている職員や出演者の名前と金額を公表しました。名前が挙げられた96人のうち3分の2は男性で、男性のトップ(200万~約225万ポンド)と女性のトップ(45万~約50万ポンド)の間には大きな開きがありました。平等法の下、雇用者は同等の仕事をする男女に同等の賃金を支払う義務があります。

BBCには4人の国際編集長がいます。グレイシー氏は、このうちの2人が96人のリストの中に含まれており、どちらも男性であることを知りました。自分も、そして同じく女性で欧州編集長カティヤ・アドラー氏の名前も出ていません。男性2人とはジョン・ソーペル北米編集長(20 万~約25万ポンド)とジェレミー・ボーエン中東編集長(15万~約20万ポンド)。グレイシー氏は「前年度、男性陣は2人の女性(国際編集長)よりも少なくとも50%高い」報酬を得ていたことに気付きました。グレイシー氏の給与は現在約13万5000ポンドですが、2009年時点では約9万ポンドでしたので、これと比較すると倍以上になります。

グレイシー氏は、4人の給与を同一にするよう上司に求めました。18万ポンドではどうかと言われたのですが、それでも同等の仕事をしている男性並みではありません。グレイシー氏はこの提案を却下し、抗議の辞任をする選択をしました。増額よりも、BBCが平等法を守り、「男性と女性を平等に評価する」ことを望んだからです(ブログより)。

ここで疑問が湧いてくる人がいるかもしれません。「国際編集長」という役職名は同じでも、4人の実力や経験は違うでしょうし、北米や中東という担当領域は中国や欧州よりも放送される頻度や注目度が高いので、こういった諸々の要素が報酬に反映されているのではないか、という点です。グレイシー氏はこの点について、上司に聞いてみたそうです。報酬額の違いの理由をきちんと説明してほしい、と。でも、「納得のいく答えは得られなかった」(1 月8日の「チャンネル4ニュース」にて)。そこで、数カ月にわたるBBC経営陣側との交渉の末、辞任に至りました。30年以上、BBCに勤めているグレイシー氏はBBC自体を辞めるわけではなく、現在はロンドンのニュース部門に勤務中です。

これを受けて、議会のデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会はBBCのトップ、トニー・ホール会長を召喚し、給与問題について質疑を行うことになりました。グレイシー氏も証言することに同意しています。会長は昨年、「男女の賃金差を2020年までに解消したい」と言っていましたが、グレイシー氏は「2020年まで待てない」と表明しています。BBCの調査によりますと、社内の男女の賃金格差は9~10%で、国内平均の18%よりはかなり低い数字ですが、公的組織としてのBBCには、より高い水準を維持することが求められているのです。ちなみに、経済協力開発機構(OECD)による主要23カ国の男女の賃金格差調査(2015年時点)の中で、最大の差がみられたのは韓国(約37%)、2番目が日本(約26%)でした。

 

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