政治に新勢力が誕生、「独立グループ」の将来は
- 労働党と保守党の離党議員で11議席に
英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)をきっかけに、新たな政治グループが誕生しました。野党・労働党の下院議員8人と保守党の下院議員3人による「独立グループ」(The Independent Group = TIG)です。二大政党制が長く続く英国で、大手政党から議員が抜けて新たな政治勢力を形成する動きは、社会民主党(SDP)の誕生以来、約38年ぶりです。
激震が起きたのは2月18日。ブレグジットや反ユダヤ主義(ユダヤ人に対する敵意や偏見)などについての労働党指導部の姿勢を批判する下院議員7人が離党し、TIGの発足を宣言しました。黒澤明監督の映画の題名を借り「7人の侍」とも呼ばれているメンバーは、チュカ・ウムナ議員(初当選2010年、以下同)、ルシアナ・バージャー議員(2010年)、クリス・レズリー議員(1997年)、アンジェラ・スミス議員(2005年)、マイク・ゲイプス議員(1992年)、ギャヴィン・シューカー議員(2010年)、アン・コフィー議員(1992年)です。
グループは「英国の古臭い政治を投げ捨て、現在に通用する新たな政治の選択肢」を提供することを目指しますが、離党理由を聞くと、労働党の問題点が見えてきます。バージャー議員は、労働党は反ユダヤ主義の政党になってしまい、党内に残ることに「恥を感じた」と話しました。ユダヤ教徒の家庭に生まれたバージャー議員は、ジェレミー・コービン党首を批判したことで、一部の労働党員から非難の集中砲火を浴びました。一方、レズリー議員は労働党が「極左の組織政治になった」と語り、ゲイプス議員は党指導部が「ブレグジットの実現に手を貸していることに怒りを感じる」と言いました。
また、7人の侍の決断後、ジョアン・ライアン議員(1997年)とイアン・オースティン議員(2005年)が離党しています。ライアン議員はTIGに参加し、オースティン議員は不参加の意を表明しました。
労働党内部にくすぶる不満の一つに、指導部が党内の反ユダヤ主義に十分に対応していないという批判があります。コービン党首は党内の人種差別や反ユダヤ主義についての調査委員会を立ち上げましたが、十分な対策を提示できない形で終わり、反ユダヤ主義の一掃に力を注いでいないと非難されています。
離脱への対応についても指導部の姿勢に不満が高まっていました。労働党下院議員の大部分がEU残留派で、「合意なき離脱」は避けたいと考えています。離脱は国民投票で決まりましたので、離脱中止を表立って主張できませんが、少なくとも再度の国民投票を実現させたいと考えています。しかし、コービン党首は2月26日にようやく2回目の国民投票支持を表明したものの、2017年の総選挙では「離脱実現」を公約としていましたし、つい最近までは合意なしの離脱も辞さないメイ首相に対し、「再投票をするべき」という立場を明確にしてもいませんでした。
グループ結成から2日後、今度は保守党のアナ・スーブリー議員(2010年)、ハイディ・アレン議員(2015年)、サラ・ウォラストン議員(2010年)が離党しました。こちらは、米映画「サボテン・ブラザーズ」(原題「Three Amigos」)にちなんで「3人のアミーゴ(友達)」と呼ばれました。離党理由は、保守党が「離脱強硬派に乗っ取られている」、「社会的な不公平の解消や貧困対策を十分に行っていない」ためでした。現在3人はTIGに参加しています。
TIGは先月25日に11人全員の初会合を開き、シューカー議員を「議長」とすることを決定しました。全員がEU残留派で、再度の国民投票の実施を支持しています。今後、政党に発展するのかどうかは不明ですが、下院の議席数では自由民主党(LDP)と同数となり、メイ首相が閣外協力を頼む北アイルランド統一党(DUP)よりも1議席分大きな存在です。今後もっと人数が増えると言われており、離脱の行方に大きな影響力を持つかもしれませんね。