オンライン被害を防げ、政府が白書を発表、害悪サイトは罰金化も
- 言論の自由侵害への懸念は?
検索、ショッピング、旅行の手配、ニュース閲覧、知人や友人との交流など、インターネットは私たちの生活に欠かせない存在となりました。国境を越えてさまざまな情報が行き来するネットの世界は私たちに無限に近い量の情報や便利さを提供してくれます。しかし一方で、一元的に規制・監視する組織がないために、利用者を守る安全網が十分ではないとの指摘もされてきました。
そこで現在大きな注目を浴びているのが、2年前に自殺した娘モリー・ラッセルさん(14)の父親イアンさんの発言です。モリーさんが寝室で自殺していたことを発見したイアンさんは、モリーさんが生前、画像共有サイト「インスタグラム」を頻繁に利用し、「不安」、「自傷」、「自殺」などのキーワードにリンクされた画像を閲覧していたことを知りました。今年1月、イアンさんは報道陣に対し、インスタグラムが「娘の死をほう助したことは疑いがない」と語りました。12歳から15歳の子供たちの99%がネットを利用している現在(オフコム調べ)、ソーシャル・メディアにのめり込む子供たちに危惧を抱く親が多かったこともあって、モリーさん事件をきっかけに未成年者をネット上の害悪コンテンツから守るべきという声が以前にも増して高まりました。
これにちょうど良いタイミングで、4月8日、デジタル・文化・メディア・スポーツ省と内務省が共同で作成した「オンライン被害についての白書」を発表しました。インターネットには大きな利点がある一方で、「日々、人々が本当に大きな被害に苦しんでいる」状態を無視できないという立場から、ネットのオープン性を保ちながらも利用者を被害から防ぐための施策を提案しています。
白書が問題視した「オンラインの被害」とは、一体どんなことを指すのでしょう? その範囲はかなり広く、例えば、テロの扇動、児童の性的搾取(虐待)、リベンジ・ポルノ、ヘイト犯罪、ハラスメント、違法物品の販売などに加え、サイバーいじめ、トローリング(荒らし)、フェイク・ニュースあるいはディスインフォメーション(虚偽と分かって故意に拡散する情報)などです。
白書が対策として提案したのが、ソーシャル・メディアやネット企業に「倫理規定」を定める独立規制機関を設置することでした。この組織は規制対象となるテクノロジー企業の出資によって運営され、もし規定が破られた場合は違反した企業に罰金を科することができます。場合によっては、違法コンテンツを掲載したサイトを閉鎖するよう、ネット・プロバイダーに命ずる力も持つことになるかもしれません。テクノロジー企業による「自主規制の時代は終わった」とデジタル・文化・メディア・スポーツ相のジェレミー・ライト氏は宣言しました。白書は7月1日まで一般からの意見を募り、その結果を基に、対策実施への動きが始まります。
フェイスブックもツイッターも「新たな規制が必要」であることでは一致しているようです(BBC ニュース、4月8日)。でも、どこからどこまでが「被害を与える情報」となるのかの判断が恣意的になるという懸念も出ており、英非営利組織「オープン・ライツ・グループ」の代表者は、「英国民の言論に国家の規制をかけることになる」と述べています(同ニュース)。
先月、ニュージーランド・クライストチャーチの複数のモスクで50人を殺害したブレントン・タラント容疑者は、その犯行の模様をフェイスブックで生中継していました。この時の動画は4000回視聴された後に削除されましたが、今や150万以上の複製動画が出回っているそうです。フェイスブックのシェリル・サンドバーグCEOは、ライブ中継機能を使う時の規則を見直すと約束しましたが、まだ変更についての発表はないようです。プラットフォーム側でもっとできることがあるように筆者には思えるのですが。