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Fri, 22 November 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

暴動で極右・移民排斥者の逮捕者続出 少女3人の刺殺事件が引き金に

今年夏、英国各地で暴動が発生しました。警察官とデモ参加者が対峙し、暴徒化した人々が放火や投石を行い、商店街から品物を略奪する様子が連日報道されました。暴動発生時から最初の1週間で約400人が逮捕され、6000人近くの公安官が治安維持に投入される異常事態となりました。

暴動のきっかけは7月29日、英西部サウスポートで発生した刺殺事件でした。ダンス教室に来ていた子どもたちが突然入ってきた少年に刃物で襲われ、女児3人が命を失います。このとき、ソーシャル・メディア上で実行犯は「ボートで昨年英国に来た難民」「イスラム過激派によるテロ攻撃」などの偽情報が拡散されました。実際に逮捕されたのは、ルワンダ人の両親の下、英国で生まれた17歳の少年でしたが、偽情報は反移民感情やイスラム教徒に対して偏見を持つ、極右支持者を街中に向かわせました。

刺殺事件翌日の同30日、サウスポートでデモ参加者と警察が衝突し、リヴァプール、マンチェスター、ロザラム、北アイルランドのベルファスト、ロンドンでも次々と暴動が発生。ロザラムでは難民が収容されているホテルが反移民を叫ぶ集団に襲撃され、ほかの地域ではイスラム教の礼拝場所となるモスクが攻撃対象となりました。イスラム教徒や移民出身者の中には外に出ると攻撃対象になるのではと恐れる人も出てきました。


暴動の中心になっているのは、極右活動家やその同調者、移民人口の拡大や生活費高騰に不安を感じる地元住民、デモ参加者と警察との対立を見物するためにやってきた人々でした。英国のEU離脱の際にも極右系のデモがありましたが、当時のような組織化された動きとは異なり、暴動の中心になったのは特定のグループに属している人々ではないようです。メッセージ・アプリ「テレグラム」や動画アプリ「TikTok」などを使って集合場所や日時についての情報が投稿され、これを反イスラム教や移民排斥主張を持つ極右組織「イングランド防衛同盟」(EDL)の元指導者トミー・ロビンソンなどが拡散していったそうです。ロビンソンは本名がスティーブン・ヤクスリー・レノンといいますが、X(旧ツイッター)で100万人近いフォロワーを持っているのです。そうした情報の中には、攻撃対象のリストが含まれ、これには移民問題を専門とする弁護士や難民申請者支援施設の名前、そして放火のやり方、火炎瓶の作り方もあったそうです。

キア・スターマー首相は緊急会合を開いて対策を協議し、警察力の強化を約束しました。8月7日までに約400人が逮捕され、同6日には男性のデモ参加者がマンチェスターのボルトンで発生した騒乱での器物損壊罪で、禁錮2カ月の実刑判決を受けました。今回の連続暴動事件での初の実刑判決といわれています。


暴動に参加すると、重大な結果を招くことがあります。イングランドとウェールズでは、火炎瓶、銃器などを使った・使おうとした、先導的役割を担った、暴動を悪化させたなどの行為に従事し、公的秩序法に違反したと見なされた場合、最長10年の禁錮刑を科されることがあるからです。政府は刑務所に空きがないので早期釈放の方針を決定したばかりですが、今回の事件に対応するため、新たに5000人の受刑者を受け入れる体制を整えたそうです。厳しい量刑が抑制策になるといいのですが。一方、見物するような気持ちでデモに参加した未成年に重大な実刑判決が下った場合、生涯消えない烙印を押されて人生が大きく変わることにならないでしょうか。負の影響も心配になります。

7日には暴力的なデモに抗議するデモが各地で行われるようになり、事態が鎮静化した兆しが見えていますが、今回の暴動は移民排斥や生活不安を感じる人の主張や社会の分断化を顕在化させました。その背景や対処策について、しばらく議論が続きそうですね。

キーワード

EDL(イングランド防衛同盟)

正式にはEnglish Defence League。2009年、イスラム過激主義に反対する組織としてロンドンで発足し、13年ごろまで積極的に活動。「イスラム教徒は真のイングランド人にはなれない」、移民出身者の増大が「イングランドの文化」を脅かしている、白人や労働者階級のために闘うなどと主張。13年以降は事実上休止状態にあった。

 

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