第6回 Weedon Junction - Long Itchington - Knowle
ゴールが少しずつ見えてきた
14 October 2010 vol.1271
旅も少し惰性になってきたのか
7月1日。昨日までで、ロンドンから150キロを漕いできたことになる。中間点だ。だがロック(閘門 - こうもん)は75カ所、まだ3分の2が残っている。それで5日を要したのだから、このペースで行ったら、いつゴールできるのか全く見当がつかない。英国運河局には2週間の予定と伝えて航行に必要なライセンスの申請をしておいたが、これまで一度もこのライセンスを提示するよう求められたことはない。それで申請費は22ポンド、高いとも安いとも言えないが、まさかのときの保険料と思えばよい。
勘定ばかりを書いたが、実は、今はもう書くことが何もない。全長2042ヤード(約1.8キロ)のトンネルも、2度目の暗闇体験となれば、緊張が薄れる。今度はすれ違う船も追いかけてくる船もなかったが、突然の激しい水音には驚かされた。鳥が水中に飛び込んだ音だった。鴨だろうか、鳥のくせに水に潜り、闇の中でも目が見えるようだ。
連日灼熱の空の下を漕いでいるのだが、日が照りながら雨は降る、不思議な天気だ。緯度が高くなって、明け方の冷え込みが厳しくなった。今回の旅では、寝袋を持たずに来てしまったから、雨具も含めて衣類一切を着込んで寝ていた。だが雨でレインコートを濡らしたら、それもできなくなる。途中運良くテスコのアウトドア・グッズのコーナーで寝袋を見付けたのが幸運だった。なんてことを書いて原稿の升目が埋まった。
夜は野宿となる。つまりは植生の宿だ
写真: 吉岡 嶺二
めまぐるしく変わる運河の表情
7月2日。一転して変化の多いコースになった。アクアダクト(運河が通る橋)、トンネル、21連続ロック、ジャンクションと目まぐるしく過ぎてきた。アクアダクトはエイボン河をまたぎ、ジャンクションには、とりあえず最終の目的地であるストラトフォード運河に向かう標識があった。気分的にはゴールに近くなってきた。
本日のスタートから13キロ地点で、ワーリック市内に入った。実は後にストラトフォード・アポン・エイボンへ到着した後に観光目的で再び訪れた、お城のある街である。14世紀に建てられたというガイズ・タワーの上から見えた青いお堀(と思っていたのだが)が、ユニオン運河やエイボン運河に繋がる水路であることは後に知った。
運河上のサンタクロース
22キロ地点の433ヤード(約400メートル)のトンネル直前での出会いも思い出になった。わが愛艇には、これまでに訪れた街の名が書き込んである。物珍しいカヌーを見て近付いてきた人が、その中に自分に縁のある地名を見付けて、よく声を掛けてくれる。ここではカフェで休憩をしていた子連れの婦人が寄ってきてくれた。彼女の出身地であるバルセロナは記されていないが、きれいな川があるから、ぜひ行ってみるようにと誘ってくれた。
連れの女の子が、手を伸ばして私の髭をつかんだ。サンタクロースとでも思ったのか。リタイア後の現在、日本では孫の保育園への送り迎えが唯一の仕事となっている。保育園へ行くと、大勢の子供たちが集まってきて、代わる代わる髭を引っ張る。そのまま子供の玩具になって山羊髭になったのだが、英国でも効用を発揮した。
航海のお守りとして持ってきている5人の孫の写真をその婦人に見せた。お互い子供のことになれば頬が緩んで話がはずみ、最後はやはり折鶴をプレゼントしてきた。ジャパニーズ・オリガミは、どこへ行っても大好評である。
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