The Madness Of King George (1994 / 英)
英国万歳!
18世紀末、ハノーバー朝時代の英国王室を題材にした風刺ドラマ。国王ジョージ3世がある日突然発狂し、王室は大混乱に陥ってしまう。
Photo: Shotaro Koshiishi
監督 | Nicholas Hytner |
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出演 | Nigel Hawthorne, Helen Mirren, Ian Holmほか |
ロケ地 | Painted Hall |
アクセス | DLRのCutty Sark、またはNational RailのGreenwich駅から徒歩 |
- 今週は「国王の発狂」というショッキングな史実に大胆にも迫った作品です。本作の主役であるジョージ3世が在位していた18世紀末の王室は、特に90年代においてスキャンダル続きだった現代の英国王室を語る際に何かと引き合いに出されるほど、多くの修羅場を踏んだ王室だったようです。
- 2世紀前の話とはいえ、ここまで王室に肉迫し、その在り方をコミカルかつ皮肉的に描くなんて、さすがだよなあ。日本ではちょっとあり得ないよね。
- こちら1991年にロンドンで初上演された同名舞台が基になっています。監督と脚本は舞台版と同様、それぞれニコラス・ハイトナーとアラン・ベネット、そしてやはり舞台と同じく、名優ナイジェル・ホーソーンが国王に扮し、名演を見せています。
- ホーソーンは本作で英アカデミー賞の主演男優賞を受賞しました。さらに王妃役のヘレン・ミレンは後に「クィーン」でエリザベス女王を演じ、米アカデミー賞主演女優賞を受賞していますよね。
- まったくもって実力派揃いというわけです。ところで、物語の主役となるジョージ3世についてですが、「発狂」って、ちょっと凄まじいですよね……。
- ポルフィリン症という遺伝性の病気だったわけだろう。生来せっかちでぶっきらぼう、それでいて神経質な性格だったところに心労が重なって発症してしまったというところか。しかし、尿が青くなっちゃうなんて怖いな……。
- そうそう、王の尿を採取するフォートナムという名の従者が、突然仕事を辞めて「ピカデリーで食料品店を開きます」と言いますが、その人こそ、かの有名な「フォートナム & メイソン」の創始者だそうですよ。もともと国王に仕えていたんですね。
- ジョージ3世は倹約家で知られ、食事も質素だったとか。農場を持っていて自ら畑を耕したりもしていたそうです。王室費も節約し、浮いたお金で議員を買収して「王の友」を増やしていき、政治にも手腕を発揮しました。ちなみに議会のシーンは、チャールズ2世が在位していた17世紀、実際に会議所として使われていたOxfordにあるConvocation Houseで撮影されています。外観にはWindsorにあるEaton Collegeの中庭が使われていますね。
- また、芸術を愛する王妃とともに音楽鑑賞するシーンが何度か登場しますが、ハンド・ベルの演奏を楽しむ場面は、Greenwichにある旧王立海軍大学のPainted Hallが使われました。ジョージ3世はシャーロット王妃と非常に仲が良かったんですね。子供もなんと9男6女に恵まれています。半面、息子たちが問題児で、例えば後にジョージ4世となる王太子はギャンブルで多額な借金をつくったり、女性のために歳費を使い込んだりと、まさにダメ息子の典型だったようです。こういったスキャンダルはメディアの格好の対象となり、王室を皮肉った風刺画が売れまくったんだとか。
- 加えて、米国植民地へ重税を課したことが原因で独立戦争が起こり、北米の領土を失うなどの失策も国王を悩ませました。そういった心労が重なって病気を発症してしまったわけですね。
- まさに頭のネジが数本外れてしまったかのように壊れていく国王を、ホーソーンが見事に演じきっているね。舞台も観てみたかったなあ。
映画の最後でジョージ3世は正気を取り戻すが、実際には後に病気を再発、悪化させ、やがては目も見えなくなり、1820年に他界するまで隔離された状態だったというから哀しい。国民の模範、象徴となるべき理想的な王家の姿を呈示しようと努めた国王だったが、その表面的な姿と内実のギャップは誰もが多かれ少なかれ感じていたわけで、そのグレーな部分を、こうやって舞台なり映画なりで表現していく英国って、ある意味、健全だなと思うよ。
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