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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

新ドラマ「ダウントン・アビー」の人気の理由

コスチューム・ドラマはなぜ受ける?
新ドラマ「ダウントン・アビー」の 人気の理由

大邸宅の中でたくさんの召使いたちに囲まれて登場するのは、華麗な衣装に身を包んだ美しい男女たち。「コスチューム・ドラマ」は、英国のテレビ文化におけるお家芸の一つだ。ITVの新ドラマ「ダウントン・アビー」を例に取り、その魅力に注目する。

Downton Abbey

あらすじ 1912年、イングランドのカントリー・ハウス(関連キーワード参照)「ダウント ン・アビー」で暮らすグランサム伯爵一家とその召使いたちが過ごす数年間を描く。グランサム卿の跡継ぎに予定されていた人物が、沈没したタイタニック号に乗船していたことが分かり、一家は大パニックに。グランサム卿には娘しかおらず、遠縁に当たるマシュー・クローリーが邸宅を引き継ぐことになったからだ。「よそ者」に財産を引き渡したくないグランサム卿の母と妻は、策謀をめぐらすようになる。日曜午後9時、ITV1で放映中。

ドラマ「ダウントン・アビー」の主な登場人物(写真左から)

使われる人

1. カーソン氏 執事。食料品、ワイン用地下室、食堂を統括し、男性の使用人の相談役を務める。少年時代からダウントン・アビーで働き出し、米国人のグランサム伯爵夫人をあまり信頼しない一方で、夫人の長女メアリーを自分の孫娘のように思っている。舞台の芸人として働いていた過去を持つ。

2. ヒューズ夫人 ハウス・キーパー。邸宅の管理に責任を持つ。女性の使用人の相談役。カーソン氏を尊敬する。

3. オブライエン グランサム伯爵夫人の小間使い。意地悪な独身女性。人生のすべてを投げ打って生きてきた。自己保身の意識が強い。

4. パットモア夫人 料理人。ほかのどの使用人の指揮下にもないと自負している。

5. デイジー 台所手伝い。使用人の中で一番下の位。ドジを踏んでばかりいる。トーマスの真意に気付かないまま、恋をしてしまう。

6. グエン 家政婦。伯爵夫人の末娘シビルと仲が良い。

7. ウィリアム 第2下僕。頭が弱く、トーマスに使われてしまう。使用人のデイジーを慕っている。

8. ジョン・ベーツ 従者。グランサム伯爵の命令のみを受ける。元兵士で、ボーア戦争のときにグランサム伯爵とともに戦った。片足を負傷しているため、いじめられやすい。使用人アンナに好意を持っている。

9. アンナ 思慮深い家政婦長。結婚の時期を逃したかもしれないと考えている。伯爵夫人の娘たちの面倒も見る。ベーツに同情を感じている。

10. トーマス 第1下僕。ほかの使用人を見下ろす。出世する機会を常に探している。同性愛者。小間使いのオブライエンと親しい。


使う人

11. マシュー・クローリー グランサム卿のいとこ。父は医者。弁護士としてマンチェスターで働く。働いていること自体をグランサム伯爵夫妻は侮辱と受け取っている。グランサム伯爵の称号とダウントン・アビーを引き継ぐことになる。

12. 前グランサム伯爵未亡人バイオレット グランサム伯爵の母。嫁のコーラにとっては我慢ならない存在。世継ぎとなるクローリー一家の中流階級らしい対応にいらつくが、孫娘のメアリーと結婚させて財産を守ろうとする。

13. グランサム伯爵ロバート ダウントン・アビ ーの存続を心から願う、良心的当主。財政難のため富裕な米国人女性コーラと結婚して30余年。娘3人。長女といとこの息子が結婚してアビーを引き継ぐことを予定していたが、タイタニック号が沈没して計画の変更を迫られる。亡父の取り決めで、跡継ぎは遠縁の男性に。

14. グランサム伯爵夫人コーラ 米シンシナティ州の億万長者の娘。グランサム伯の爵位と邸宅ダウントン・アビーは男性が引き継ぐという姑の決定を、そのうち自分は息子を産むだろうと想定して、楽観的に受け取っていた。しかしこれが実現せず、今は娘たちが富裕な人物と結婚するよう、日々画策している。

15. イザベラ・クローリー マシュー・クローリーの母。亡夫は医師で、亡くなった父も医師だった。中流階級の出身だが、教育水準はグランサム伯爵夫人コーラや未亡人バイオレットより高い。バイオレットと衝突する。

16. 長女メアリー 知性的で美しい。父のいとこの息子パトリックと秘密裏に婚約していたが、パトリックがタイタニック号沈没で亡くなるという悲劇に。より良い結婚相手を探している。

16. 次女エディス 姉の婚約者パトリックを想っていた。姉メアリーを嫌い、新たな跡継ぎの男性を利用してメアリーに復讐しようとする。

17. 三女シビル 政治、社会的意識が高い。女性の参政権獲得を支持。家族のいざこざには関わらないという姿勢を保つ。


コスチューム・ドラマとは

民放テレビ局ITV1で、英国の貴族が住む大邸宅を舞台にした新ドラマ・シリーズ「ダウントン・アビー」が、9月末から始まった。時は第一次大戦勃発直前となる1912年。巨大な庭付きの、お城のような邸宅に住み、毎朝、寝室から使用人を鈴一つで呼びつける貴族の贅沢な暮らしがテレビ画面を通して映し出されていく。優雅な暮らしを続けるグランサム伯爵一家を支えるのは、階段を上り下りしながら忙しく働く使用人たちだ。「使う人」と「使われる人」と いう対照的な関係にある2つの階級に属する人々の暮らしを描いた人間ドラマである。

「ダウントン・アビー」は、登場人物たちが、ある特定の時代の衣装を身につけて演技するという意味で、典型的な英国のコスチューム・ドラマの一つであろう。描かれる時代や舞台の種類は千差万別。古代の戦闘映画「ベン・ハー」(1959年)、名優エリザベス・テーラーが出演した「クレオパトラ」(1963年)、シェークスピア作品「マクベス」(1971年)、タイタニック号沈没を扱ったレオナルド・ディカプリオ主演の「タイタニック」(1997年)などの名作の数々がコスチューム・ドラマに当たる。

ジェーン・オースティンが代表格

英国のコスチューム・ドラマの中でも一つのお家芸の域に達しているのが、18世紀から20世紀初頭の時代を背景として描いた、中上流階級の恋物語と人間ドラマであろう。その代表格は、何といっても「高慢と偏見」「マンスフィールド・パーク」などの小説で知られる英国が誇る女流作家ジェーン・オースティンの作品を原作としたものだ。現代からすれば少々窮屈そうな装束に身を包んだ男女が、直接的な表現が許されない時代の制約を受けながらも、最後はそれぞれの幸せな場所を見付けていくという物語は、現代人の心にも強く響く。

コスチューム・ドラマには、「ダウントン・アビー」に象徴されるような、使用人を使う側と使用人として使われる側の対比というテーマも、繰り返し登場する。1971年〜75年にかけてITVが放映した「アップステアーズ、ダウンステアーズ」は、ロンドンにある大邸宅を舞台に、「アップステアーズ=使用人を使う階上側の世界」と「ダウンステアーズ=階下での使用人の世界」を描いた。このITV放映のドラマの続編を、BBCが同題名で年内に放送する予定と言われている。

根強い人気の理由

コスチューム・ドラマは、なぜ人気があるのだろう。時代ものドラマの専門サイト「ピリオド・ドラマ」は、「視聴者が現実を忘れて、 没頭できる」ことを人気の理由に挙げている。つまり、「別世界」を体験させてくれるというのだ。多くの人にとって、上流階級の暮らしや贅沢な所持品さらには装束は、手の届かない、憧れの存在である。そういった生活を、ドラマを通して垣間見ることで、たとえ一瞬でも自分もその世界の中で生きているような気分になる。その一方で、使われる側の人間ドラマに共感を抱く人も多いだろう。コスチューム・ドラマは、階級制度の名残が残る、英国らしい楽しみの一つとなっているようだ。

English Country House

16世紀以降、英国の農村・田園地帯に貴族・地主層が建設した大邸宅。建築様式によって「ホール」「カースル」「パーク」「アビー」などと呼ばれる。18〜19世紀における都市の地主層は、週末に田園地帯のカントリー・ハウスで友人らと休息を取り、狩りなどを楽しんだ。20世紀以降、工業化の進展や2度の大戦の影響で跡継ぎや使用人を失い、次第に没落。また荘園からの農業収入の減少や邸宅資産への高額の税金も問題となり、やがて多くのカントリー・ハウスが売却あるいは解体された。現存しているのは1500から2000と言われる。

(小林恭子)

 

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