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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

英国の最低賃金が引き上げに - 若者の雇用との関連性で議論

若者の雇用との関連性で議論
英国の最低賃金が引き上げに

英国では、1999年から最低賃金制度が導入されており、独立の組織のアドバイスを基に、政府が毎年改正を行っている。景気が期待通りに好転せず、経済の先行きが不透明な中、雇用や賃金は英国民にとって大きな問題であるが、今回はこの最低賃金について取り上げる。

英国における最低賃金の変遷

Source: Low Pay Commission
英国における最低賃金の変遷

(i) 「成人最低賃金(Adult Rate)」の対象年齢は、1999年4月の最低賃金制度 導入当初は「22歳以上」
であったが、2010年10月1日から「21歳以上」に引き下げられた。
(ii) 「若年者最低賃金(Development Rate)」の対象年齢は、1999年4月の最低賃金制度導入当初は
「18~21歳」であったが、2010年10月1日から「18~20歳」に変更された。
(iii) 16~17歳の労働者の最低賃金は2004年10月1日に導入された。
(iv)「 アプレンティス」は、職場で見習いとして働きながら職業技術を習得する制度である
「アプレンティスシップ」に参加している者。アプレンティスの最低賃金は、2010年10月1日に
導入された。

英国において、特定の分野で「最低賃金労働者」が占める割合

Source: Low Pay Commission
英国において、特定の分野で「最低賃金労働者」が占める割合

*「低賃金委員会」による2010年の調査の結果。2010年4月時点で、21歳以上で1時間当たりの給与が
£5.86以下、18~20歳で£4.86以下、16~17歳で£3.60以下の労働者を「最低賃金労働者」と規定し、
それらの者が全労働者 に占める割合を、分野別に算出した。
(i) 宿泊施設運営、飲食店経営など、接客サービスを提供する業種。

賃金


1999年にブレア政権が導入

10月1日、英国の最低賃金が引き上げられた。最低賃金は、年齢別に規定されており、21歳以上の成人の額は、これまでの1時間当たり5.93ポンド(約700円)から、同6.08ポンド(約717円)に引き上げられた。

英国で最低賃金が導入されたのは、ブレア労働党政権下の1999年4月である。最初の最低賃金は、22歳以上で1時間当たり3.60ポンド(約424円)と、現在の6割ほどであった。最低賃金の導入を規定した「1998年全国最低賃金法(National MinimumWage Act 1998)」はまた、独立の機関として「低賃金委員会(LPC)」の設置を定めた。LPCは毎年、政府に対し、最低賃金の改定について提案を行う。政府は、これに基づいて毎年10月1日、最低賃金の額を変更する。

自営業者やフリーランスで働く人、大学や専門学校の課程の一部としてワーク・エクスペリエンスを行う学生などの例外を除いて、大半の労働者は、最低賃金を支払われる法的権利がある。フルタイムかパートタイムか、正社員か派遣社員かなどの労働形態の違いは関係ない。

若者の就職の機会奪うとの見方も

最低賃金の引き上げについては、「若者から就職の機会を奪う」として懸念する声もある。仕事経験の無い、または少ない10代の若者などは、そのほかの年代の労働者より、最低賃金またはそれに近い額の賃金で雇用されている者の割合が多い。そのため、最低賃金が更に上昇すると、こうした若者をあえて雇用しようという雇用者側の意欲がこれまで以上に減退するという見方であり、主に保守系の人からこうした意見が聞かれる。LPCが今年前半に政府に提出した最低賃金引き上げに関する提案書(今年10月1日からの最低賃金引き上げの基になった提案)にも、最低賃金が若者の雇用を妨げている可能性について触れていた。

1時間8ポンドの「生活賃金」求める声も

一方、全国の労働組合の連合組織である英国労働組合会議(TUC)は、若者の雇用悪化と最低賃金との関連性を否定。現政権による公共支出の削減、昨今の急激な物価高などを考えると、低所得者を貧困から脱却させるためには、最低賃金の更なる引き上げが必要であると主張している。英国商工会議所(BCC)のアダム・マーシャル政策局長は、企業による雇用を拡大し、経済活性化を図るためには、最低賃金の凍結ばかりか、引き下げの可能性も検討すべきと主張しているが、これに対しTUCは、需要喚起のため、最低賃金の引き上げは必須であると指摘している。なお、今年10月1日からの21歳以上の成人の最低賃金引き上げ率は前年比2.5%であり、これは、最近の物価上昇率を大幅に下回る数字である。

公的部門職員の労働組合「ユニゾン」は、英国のすべての労働者に対し、1時間当たり8ポンド(約944円)の「生活賃金(「関連キーワード」欄を参照)」を適用すべきであると訴えている。LPCは、最低賃金と若者の雇用との関連について調査を委託したことを明らかにしており、来年の最低賃金の引き上げの提案には、この調査の結果が反映されるものと思われる。(


Living Wage

最低の生活水準を保つのに必要な賃金を時間給で計算したもの。生活賃金。ヨーク大学の研究チーム「家族予算ユニット」は、生活賃金を、「賃金労働者とその家族が、寒さをしのぎ、住居と、健康的で味の良い食事を手に入れ、社会に統合し、慢性的ストレスを避けるのに十分なレベルの賃金」と定義している。グレーター・ロンドン・オーソリティー(GLA)は、2005年以来毎年、ロンドンの生活賃金を発表している(2011年は1時間当たり8.30ポンド)。英国内のロンドン以外の地域での生活賃金は、ラフバラ大学の社会政策調査センターが算定しており、2011年は7.20ポンドとされている。

(猫山はるこ)

 

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