第4回 食のタブー
東京に住んでいた時は、夕食だけでも週に3~4回は外食をしていた。同僚や友人と会食したり、夫と2人で近所のイタリアンへ通ったり。何と言っても外食天国の東京には、舌、胃、お財布と三拍子そろって優しいお店がたくさんある。
ロンドンに引っ越してすぐに妊娠したので、外食の機会はぐっと減ってしまったが、少なくとも今は自炊のほうがほっとする。というのは、英国では、妊婦に対する食のタブーが多いのだ。
避けるべきとされる食品だけざっと挙げてみると、完全に火の通っていない肉、魚介類、卵。白かび・青かびチーズ、山羊・羊のチーズ。レバーにパテ類。自家製のアイスクリームやマヨネーズ(生卵使用のため)。また、家族にピーナツ・アレルギーの気がある妊婦はピーナツを避けることが多い。どこまで気にするかはその人の考え次第だけれど、心配性の私は、なるべくこれらの注意に従うことにした。
が、そうすると、レストランでの食事選びが非常に厄介になるのだ。「スモーク・サーモンは大丈夫なんだっけ?」「ここのアイスクリームは自家製かな?」などと考えだし、メニューとのにらめっこが続く。
日本では、生魚もレバーも、タブーではないそうだ。食品の下処理も含めた食文化の違いだろうか。
こう書くと、英国の方が妊婦のタブーが多そうだが、実は日本の妊婦には、英国にはない最大のタブーがある。それは、体重制限。日英の妊婦雑誌を読み比べると、その違いは顕著だ。英国の妊婦雑誌が行った読者インタビューでは、多くの妊婦が「妊娠して良かったこと」の第一に「体重を気にしなくてよくなったこと」を挙げている。一方、体重制限を全面的に強調する日本の妊婦雑誌では、栄養士による読者の食事チェック(カロリー計算付)が特集され、「出産後にしたいことは?」との質問に、ある妊婦は「カツ丼を食べること!」と涙ぐましいお答えをしていた。カツ丼くらい、自由に食べておくれよ? と思ってしまう私は、すっかり英国流のおデブ妊婦になりつつある。