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Wed, 20 November 2024

第118回 欧州大統領のいす

本命のブレア元首相

欧州大統領のいすを巡る報道が増えてきた。これまでは英国のトニー・ブレア前首相がその候補として評判が高かったが、ここへきて、独仏首脳が「英国はユーロに入っていない」「最初は中小国から選ぶのが良い」といった発言を繰り返し、スペイン、ポルトガルもブレア氏を支持しないと発言するなど、黄信号が灯っている状況にある。ただ他に有力な候補がいるわけでもなく、依然としてブレア氏が最右翼だ。

当のブレア氏は現在、外国の要人訪問を繰り返しては、外交問題の仲介あっせんと、自らの投資会社のPRなどを積極的に行っている。「F T」紙の記事によれば、9月11日から10月10日までの1カ月間に14回と、ほぼ2日に1回のペースで講演を行っており、行先はシカゴ、ニューヨーク、エジプト、シンガポール、ロサンゼルス、バンクーバー、ワシントン、ニュー・ヘブンとまさに世界を股にかけている。FTは、「本当に『前』首相?」 と皮肉を投げ掛けているほどだ。

投資会社の代表というビジネスの顔と、前首相や中東特使としての公的な側面が一体となっていることにやや危なっかしさを感じる人も多いだろう。その点は一応置いておくとして、現状でも実質的に外交官としての役割を果たすことができること、関係会社への収益も莫大なものがあることを鑑みると、ブレア氏が欧州大統領になることは、必ずしも彼にとって得とは言えないという見方も出るほどである。

EUで何が問題か

EUの課題は、第一には経済危機、なかでも東欧や南欧の経済規模の小さい国の経済状態の悪化への対処、第二にそうした悪化を食い止めるための財政援助のあり方(独仏などがそうした国に援助することが良いかどうか)、第三に金融機関経営悪化への対処、第四にリスボン条約を始めとする域内の諸制度の標準化、第五にそうしたプロセスの民主化の促進であろう。

このうち第一から第三までは一連の話である。米国と異なり、欧州の金融機関は、サブプライム問題以降に大きく価格が下がった、またはもはや市場で値段がつかなくなった証券化商品を処理しきれていない状態にあると見られている。こうした証券化商品は、米国の監督当局の影響が及ばない海外子会社で塩漬けにされている。リーマン・ブラザーズ破たんのときも、元々は米国で売買されていた証券化商品を英国の子会社に移したことでその子会社が破たんしたことから、その損失は英米どちらの会社が負うべきかという争いがある。グローバルな金融機関はこうした「飛ばし」を行うことがあるが、欧州ではその損失処理を十分行っていない可能性が高い。そしてその処理を行えば、金融機関の経営問題に直結し、景気悪化につながるため、財政支援が問題となる。

当面のところ、欧州各国は金融機関の不良債権は処理せずに、証券化されたローンの借り手であった東欧や南欧諸国自体を救済することで会計処理も含め損失処理を先送りし、あわよくば、証券化商品に値段が再度つくことを狙っているかのように見える。しかし世界的な需要がアジアを除いて冷え込む中で、その戦略には危ういものがある。

アイスランドほどではないものの、国の経済を支えていくだけの産業を持たない東欧の危機は、近い将来に現前するであろう。その処理を担い、独仏に金を出させるのが新大統領の仕事になる。当然、人々に対するアピール力があり、決して意のままにはならないだろうブレア氏では、独仏はやりにくいことになる。ならば、第四、第五の問題を担える実務家を期待するということになろう。

大統領に相応しい人物とは

EUも経済が低成長期を迎え、その存立基盤が怪しくなりつつある。経済が順調であるときには、制度によって各国調整ができる、いわゆる能吏(のうり)型の進め方が有効であった。しかし低成長期に他国を援助することに対して、独仏は簡単にはYESとは言わないであろう。政治的メリットが要求されることになる。

金融機関の処理をこなせる市場はロンドンにしかなく、他は国家が処理するほかない。処理できる力がある国家は独仏のみであろう。こういう政治力学を乗り越えて、EUを再建できる人となるとブレア氏で十分かどうか。サッチャー政権の継承は上手だったが、革命を起こした人ではない。一方で小国の候補に力量はない。

そもそも、有名政治家がなるほかないという選考過程の非民主制も目につく。結局、欧州大統領とはお飾り程度の存在であり、誰がなっても大差ない、というのが結論のようだ。

(2009年11月2日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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