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Wed, 20 November 2024

第120回 中国とインドへの企業進出考

世界経済のエンジンとの関係

世界経済の成長を担うエンジンが、これから中国とインドになることはほぼ確実である。最近の経済レポートで、「200年前は中国とインドが世界の国内総生産(GDP)の半分を占めていた」というものがあったが、今世紀末にはそうした状態に戻る可能性がある。日本の企業も両国への進出で色々な失敗を経てきているが、好き嫌いにかかわらず、これら成長力のある国と関係を結ぶことなくしては、日本の成長も望めない。

このため最近では、日本の製造業は大企業のみならず、中小企業までもが、相当の割合で両国と如何に付き合うかということを念頭において生産計画を考えるようになっている。今後は中印で日本の大企業の工場建設が相次ぎ、その敷地内や近隣に中小企業が自ら工場を建てたり、合弁会社を作ったり、現地企業への技術供与をするといった話題が急増すると見られる。

それにしても、日本の企業からは「両国はもう懲り懲り」という話をよく聞く一方で、英国の企業からはそうした声があまり聞かれない。インドは英国の植民地であったので、英国人はインドのことをよく知っていて馴染みも深い一方、日本は中国と戦争したためにどうしても感情的なしこりが残っているとの見方もあるが、インドは旧宗主国の英国に必ずしも好感情を抱いてばかりいるわけではないので、この議論には必ずしも賛成しない。

中国とインドの難しさ

どうしてこうした日英の差が生まれるのだろうか。まずインドに関しては、植民地時代を含めて金融業などを中心に非常に長い付き合いがある英国に比べ、日本は土地など大型投資を要する製造業が進出する機会が多いため、開業に当たっての調整コストが大きい上に、さらには付き合いの時間が歴史的に短いからではないだろうか。

インドでよく聞く日本企業の失敗は、土地の権利が入り組んでいて、用地買収から工場建設まであまりに時間がかかりすぎるということである。インド政府は資本主義国でありながら、大企業を抑制し、中小企業を優遇する社会主義的な政策を徹底して行っている。このため土地関係の規制は多く、土地は基本的に個人や中小企業が有している。民主主義国であるため、強権的に地権者に土地を放棄させることもできない。このため、一つの工場を建てるだけで大変な時間と労力が必要になる。製造業にとっては、この時間が致命的である。しかし、インドでは時間が必要なのだ。

中国での失敗は、合弁企業などで中国人がノウハウを吸収すると、会社を辞めてライバル会社を設立し、元の会社は当局からいろいろな規制違反などで難癖をつけられて、契約が守られずに撤退を余儀なくされるという例が多い。よって、技術だけ取られて終わったという感じが残ってしまう。中国は土地が国有の社会主義国なので、役所の決定により用地買収が強権的に即時実施されるため、非常に早くことが済む。一方で、契約が守られないという問題がある。

この点を中国法の先生に聞いてみると、中国では、契約関係は人間関係の一部として捉えられているとのことだった。すなわち、契約が人間関係を上回るわけではないので、人間関係が悪くなるようなら、契約は無視する、修正して都合よく解釈するということが平気で起こるようになる。これは日本で明治維新後に行われた、フランスやドイツなどの国で顕著に見られるローマ法を起源に持つ法律の継受が、中国では行われていないことを意味する。ローマ法は、人間関係と契約関係を峻別するところにその特色があるのだが、ローマ法が継受されていない中国では、両者の分別が出来ていないため、人間関係>契約関係となる。そうであれば、中国進出の鍵は、信頼できる現地の人を見つけることが第一条件になろう。

インドと中国の悠久の時間

考えてみれば、両国はインダス文明と黄河文明の発祥の地であり、4000~5000年の歴史を持つ。中国の為政者は100年先の目標を考えているという。そうであるならば、インドでは長期化を覚悟で、現地のスピードで進出するほかあるまい。また中国でも紹介などを通じて、信頼に足る人間関係を構築することがビジネスにとって重要になる。

日本の銀行の海外進出で唯一成功と言えるのは、旧大和銀行がインドネシアに作ったプルダニア銀行である。現地と徹底して付き合い、昨年50周年を迎えている。

(2009年12月2日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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