ユーロの独歩安
12月8日に実施されたギリシャ国債の格下げを受けて、ユーロ安となっている。また南欧のPIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)諸国の経済は、失業率が2けた台、最大のイタリアで20%と停滞色が強い。
さらにヨーロッパは、他に東欧という不良債権の大きな火種を抱えている。昨年来、米国では不良債権の処理と公的資本を含めた資本増強といった措置が矢継ぎ早に取られたのに対して、欧州では金融機関の国有化などの措置が取られたものの、不良債権を時価で評価した上での償却や引当が十分なされたとは言い難いと市場では見られている。
どうして時価評価ができないのか。まず、市場ではサブプライム問題の発火点となった証券化商品の不良在庫がまだまだ出尽くしていないのではないかという見方が根強い。証券化商品を扱う欧州の金融機関は、その証券化商品を記録する勘定を置く拠点を、ニューヨークやアジアの子会社との間で頻繁に移動させている。これは顧客との売買の都合もあるが、各国の金融当局が行うチェックへの対応という面も持っている。当局が検査を実施する際、他国にある金融機関のオフィスに長期間にわたって滞在するということは難しい。このため、検査中は他国のオフィスに勘定を移転することがあるとされており、このようにして時価評価を免れている「MISSING証券化商品」がまだ相当規模で残っている可能性があると言われている。不良債権を時価評価するとなると、こうした「MISSING証券化商品」も再評価することが必要になる。その結果、金融機関の経営が破綻しかねない状況に陥ることを恐れ、時価評価を行わない。欧州の金融機関は不良債権処理を十分に行っていないと市場が懸念する所以である。
欧州の不良債権問題
11月にEUは、国際会計基準委員会が出した「企業が金融商品の市場価格評価をオプションとしてできる範囲を拡大する提案」に対し、反対意見を提出した。金融商品の市場価格評価を行える範囲が拡大し、金融商品の価格の振れが大きくなると、金融機関の経営が安定しなくなるという理由である。
上記のように、EUでは、証券化商品の時価評価による損失処理が遅れている。こうした現状において証券化商品を市場価格評価すると、金融機関に大きな損失が出ることになるので、これらを救おうとすると、EU各国の財政が持たない、と言っているようにしか聞こえない。日本の不良債権問題のときに不良債権を時価評価すべきだとさんざん言ってきたあのEUはどこに行ったのか、と尋ねたくなる。欧州人のご都合主義、自分の都合のいいように世界基準を作りかえる厚顔には、腹立ちさえ覚える。
それにしても、こうしたEUの動きを見ていると、欧州における金融機関の不良債権処理がまだまだ峠を越えていないことが分かる。その上での問題は、今後、財政余力のないPIGS諸国の金融機関から経営危機が顕在化してくる可能性が高いということである。
幸い一つの政府で対処するには荷が重過ぎるほど大きな金融機関は、スペインのサンタンデールとビルバオビスカヤ以外はないが、中小金融機関の破綻が、大手に伝染するリスクには注意が必要である。アジア通貨危機の最大の教訓は、コンテイジョン(経済状況の悪影響)だった。同じようなことが起きれば、ユーロは暴落するリスクがある。
EUの箍
結局、この問題は、南欧や東欧まで拡大したEUの在り方そのものを問うということになると思う。再々度の大戦を回避することを目的とした独仏枢軸から始まったECから、欧州各国が対米交渉力強化を狙って相乗りした壮大な社会実験へと発展したEUは、これまで基本的には成長期しか経験していない。
不況期に、大国がどこまで経済回復の遅れる国を支援できるのか。域内での為替調整や金利差設定を行うわけにはいかないことから、国家間の経済格差が開いた場合、財政による所得移転(補助)か、労働者が国を移動するほか、格差を是正する方法がない。
ただ移民が多くなったといっても、ギリシャ人の半分が英国に来ることができるわけではない。結局、財政規律を守るためにも、大国独仏が東欧、南欧を援助するしかないが、その余力は小さい。そうなると2010年は、EUの箍が問題になる年になろう。
(2009年12月17日脱稿)
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