「チャイナ・アズ・ナンバーワン」に賭ける英国
長身の元イングランド代表FW ピーター・クラウチが所属するイングランド・プレミア・リーグのストーク・シティFC。クラブは下位を低迷しているが、スポンサーのオンライン賭け屋Bet365が絶好調だ。この2年間で取引高を78%も増やし、ライバル業者のウィリアム・ヒルやラドブロークスのオンライン部門の、それぞれ3~7倍の規模にまで急成長している。
その秘密について、「ガーディアン」紙がスクープを放った。Bet365は世界最大のオンライン・ギャンブル市場の一つ、中国で荒稼ぎしているという。問題は中国国内で公認された賭博場はごくわずかで、それ以外の賭けごとはすべて法律で禁止されていることだ。このため、Bet365の客だった江西省の中国人4人が逮捕され、ブログでBet365を推奨した浙江省の中国人2人が投獄されたと報じられている。Bet365は摘発を逃れるため、中国国内に設置したウェブサイトのアドレスを頻繁に変更。英国国内ではオンライン・ギャンブルの一部は許可されており、法律の「抜け道」を利用して、海外からインターネットを使って中国人の射幸心(しゃこうしん)をあおっている。中国のギャンブル市場は年間、139億ポンド(約2兆4062億円)の勝利金を賭け屋にもたらし、うち30億ポンドはオンライン・ギャンブル、残りが賭け屋への取り次ぎ業者を経由しているという。ちなみにBet365は昨年、13億ポンドを稼ぎ出した。2007年から10年にかけ労働党に33万ポンドもの政治献金を行っている。
どれだけ購買力があるかでそれぞれの国の経済規模を計る購買力平価換算で今年、中国の国内総生産(GDP)が米国を上回ることが7日、国際通貨基金(IMF)の推計で明らかになった。英国が世界最大の経済大国の座を米国に明け渡したのは1872年。購買力平価は経済力の実態を表さないという指摘もあるが、主役交代は実に142年ぶりのことだ。「チャイナ・アズ・ナンバーワン」の恩恵に預かっているのは何もBet365だけではない。中国からあふれだしたマネーは英国を始め欧州全体を席巻しているのだ。
米国のシンクタンク、ヘリテージ財団の調査では2005年から14年6月にかけ中国が英国で行った投資や契約は236億ドル(約2兆5453億円)。欧州ではフランスが英国に次いで多く106億ドル。3番目がイタリアで69億ドル。ドイツは4番目で59億ドルだった。欧州連合(EU)全体でみると、10年には61億ユーロ(約8314億円)だった中国の直接投資残高は12年末には4倍以上の270億ユーロにまで膨らんでいる。もはや英国も欧州も中国マネーなしでは自国経済を押し上げることはできなくなっている。
花の都パリのシャンゼリゼ大通り。最高級ホテルが中国資本に買収され、昨年は約150万人の中国人観光客がフランスを訪れた。中国人観光客を狙った犯罪が後を絶たないため、フランスと中国の警察がパリを合同巡回という話が一時、取り沙汰された。英国では、ヒースロー空港、ロンドン名物のブラックキャブ、水道会社テムズ・ウォーター、再開発地域カナリ―・ワーフを所有する不動産会社などに次々と中国マネーが流れ込み、朝食用シリアル・メーカーやピザエクスプレスまで中国資本に買収された。
IMFは、欧州単一通貨ユーロ圏の経済は景気後退に逆戻りするリスクが40%もあると警鐘を鳴らす。欧州とは一いちい衣帯たいすい水の英国経済を預かるオズボーン財務相は欧州への依存度を減らすことが浮上のカギとばかりに、中国との関係強化にひた走る。切り札は中国の人民元取引だ。11年にはロンドン市場での人民元取引はほとんどなかったが、今では中国と香港を除くと人民元オフショア市場の3分の2はロンドンに集中する。2年前から英大手銀行が、昨年は中国の銀行 が中国政府の許可を受けて人民元建て社債の発行を始めた。
2000年代前半、英国では密入国の中国人がトラックのコンテナの中で大量に窒息死したり、海岸でザルガイを採取させられていた中国人の不法移民が満潮で大量溺死するなど悲しいニュースが相次いだ。あれから10年、中国からは密入国者ではなく、巨額マネーが流れ込む。今後10年で、世界の縮図であるロンドンがどんな変貌を遂げるのか想像しただけでも目眩を覚える。
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