第4回 友好的な離婚-キャメロン首相とメルケル独首相
今月7日、欧州議会に招かれたドイツのメルケル首相に対して、欧州連合(EU)からの英国の脱退を目指している英国独立党 (UKIP)党首のナイジェル・ファラージ欧州議会議員が「メルケル独首相はキャメロン首相に友好的な離婚を申し込むべきだ」と皮肉たっぷりな言葉を投げつけた。
ギリシャに端を発した欧州債務危機以降、欧州の顔としての風格を漂わせ始めたメルケル独首相は「私は英国をEUにとどめておくためにあらゆることをするつもりよ」「世界の中で孤立することで英国は幸せにはならない」と応えて、ロンドンに向かった。2014~20年のEU予算をめぐり対立が深まるキャメロン首相との首脳会談に臨むためだった。
欧州債務危機をきっかけに、欧州統合の深化を目指すドイツ、フランスなどEU内多数派の国々と、慎重な英国の間の亀裂がますます大きくなっている。
最初に亀裂が入ったのは昨年12月、欧州債務危機の対策が焦点となったブリュッセルでのEU首脳会議。ロンドンの国際金融街シティにも金融取引規制のタガをはめようとするドイツ、フランスに対して、キャメロン首相は多機能携帯電話でアドバイザーと連絡をとりながら対策を検討していたが、それも遮断された。
1980年代のサッチャー改革で製造業に見切りをつけた英国にとって、シティは世界のおカネを吸い寄せる金の卵だ。EU域内への輸出が英国の輸出の5割を超える現状下、EU加盟国との友好関係を保つのも重要ではあるが、自由な国際金融取引にドイツ流の厳格なタガがはめられると、シティは一気に活力を失い英経済が失速しかねない。
キャメロン首相は、財政規律を強化する新財政協定の締結合意を急ぐメルケル独首相が最後には折れ、英国の求めるシティへの例外措置を認めるとの感触を得ていたが、その読みは完全に外れた。メルケル独首相はいつものように最後の最後まで手の内を見せなかったが、内心では欧州債務危機に乗じて南欧諸国の国債などを売り浴びせるシティを忌々しく思っていたに違いない。
最終的には、欧州統合に抵抗する欧州懐疑派が多い英国とチェコを除くEU加盟25カ国が新財政協定に署名。欧州単一通貨のユーロではなく自国通貨ポンドを維持する英国はEUの窓際に追いやられてしまった。
そして、EU予算問題がある。メルケル独首相は2年前、キャメロン首相との共同声明で、インフレ率を上回る予算の拡大を認めないことで一致していた。しかし、メルケル独首相はEU予算を域内総生産の1%以内に抑える案に転換してしまった。英国案だとEU予算の増加は700億ユーロ(約7兆1100億円)になり、ドイツ案だと1000億ユーロ(約10兆1600億円)となる。
「国内で財政支出を大幅に削減している折、EU予算も削減すべきだ」。下院で先月31日、最大与党・保守党の造反議員53人が提出したEU予算削減動議が最大野党・労働党の支持を得て賛成307票、反対294 票で可決された。保守党議員の棄権は13人だった。
英国では欧州債務危機の拡大とともに、伝統的な欧州懐疑派が勢力を強めている。動議は可決されても法的拘束力を持たないが、キャメロン首相の求心力低下は否めない。今月22~23日のEU首脳会議を控え、メルケル独首相は7日、ロンドンでの首脳会談で、党内欧州懐疑派の突き上げで先鋭化するキャメロン首相との妥協点を探ろうとしていた。
英世論調査会社YouGovが8日発表した世論調査によると、英国では49%がEUからの脱退を支持、残留派は28%。一方、ドイツでは残留派57%、脱退派25%で、英国とは全く正反対の結果が出た。
メルケル首相は会談後、「最初から最後通告を突きつけて交渉するのは良い考えではない。今夜中に交渉はまとまらないが、私たちの利益のために協力と友好の精神で成し遂げたい」と述べ、キャメロン首相に態度を軟化させるよう求めた。
EU予算でドイツと英国が再び決裂すれば、亀裂は決定的となる。「単一市場」を求める英国と、「単一通貨」を守るため逆にEUを二層化しかねないドイツの妥協は容易ではない。UKIPのファラージ党首が言う「友好的な離婚」が現実的な響きを持ち始めた。
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