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Sun, 22 December 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第24回 スポーツ心理学とバレエ

10 May 2012 vol.1351

ストレス、プレッシャー、緊張などで、物事が思う通りに運ばなかったり、中途半端な結果になってしまったなど、皆さん誰しも経験したことがあるのではないでしょうか。バレエ・ダンサーや役者、音楽家など、パフォーミング・アーツの世界に携わる人間やスポーツ選手にとって、「心・技・体」は非常に重要な要素です。「心」は心理面・精神力、「技」は技術・技能、「体」は体力・身体・筋力などといった言葉で表現できるかと思います。トップ・レベルでのパフォーマンスを行うには、これらすべてが、バランス良くそろっていなければなりません。ほかのパフォーミング・アーツの分野にも共通することだと思いますが、バレエにはそれらに加えて、芸術性、表現力も要求されます。

バレエ・ダンサー 小林ひかる
団専属の精神科医の方が執筆陣の一人として関わっている本。バレエの技術以外にも学ぶことはたくさんあります

心理面、精神力を科学的にトレーニングするという考えは、もともと旧ソビエトにおいて、オリンピックでメダルを獲得するという目的で、多くの研究者やスポーツ関係者が勝つための方法を見つけ出そうとしたところから始まったのだとか。とあるオリンピックでその素晴らしい成果を見た米国、ヨーロッパ諸国を始めとするほかの国々が徐々にそうしたトレーニングを取り入れ始め、近年、ようや く日本でも重要視されるようになってきたそうです。

そしてその波は、古風なバレエ界にもやって来ました。

英国ロイヤル・バレエ団では、およそ20年前からこのスポーツ心理学を取り入れており、初めは主に、怪我をしたダンサーの舞台復帰の手助けという目的で始められたようです。現在では、怪我からの復帰のみならず、心理面の安定(セルフコントロール・リラックス・集中力)、自信(決断力)、イメージ能力(実現能力、想像力)など、色々な面でのサポートを行なってくれています。

一般的にもそうですが、「精神科医に診ていただく」というのは、やはりまだ抵抗が多いようで、実際に相談に来るダンサーは少人数だそうです。私も初めてそのようなお医者様がバレエ団内に存在する、と聞いたときには、一体、彼女に何ができるのかと半信半疑でしたが、ほかのダンサーから、怪我からの復帰に役立った話などを聞いているうちに、これは一回試してみる価値があるかもしれないと思い直しました。そこで初めて「技」「体」だけではなく、「心」もトレーニングすることができるのだと認識できるようになり、また現在、このコラムを書かせていただいていることによって更に、心理・精神面を磨いていくということに興味を持ち始めているところです。

あれほど練習し、体の調子も万全だったのに、なぜか結果的にうまくいかなかった、というようなことは、私たちの世界にはよくあることです。自分でも知らないうちに自分自身にプレッシャーをかけていたり、もし失敗したらと心配性になってしまったりと「技」「体」ばかりに気を取られて「心」にまで気が回らない。団専属の精神科医の方は、スポーツの世界では、この「心」の問題が、オリンピックでメダルが取れるか取れないかの違いにまで関わってくると言います。

キャリアを積むことによって、バレエのみならず勉強することが増えてきているように感じているこのごろです。

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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