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Mon, 23 December 2024

第67回 ペンは剣よりも強し

通勤途中に「ストリープ・ストリート」という小道があります。その名前の由来は、17世紀にユグノー(フランス新教徒)難民として移り住んだストリープ家。絹と宝石商で裕福になり邸宅を建てますが、19世紀末の道路拡張工事で撤去され、通りに名だけが残りました。息子のジョンは牧師をしながら本を書き、特に「ロンドンの歴史の父」と呼ばれるジョン・ストウの「ロンドン地誌」(1598 年)の改訂版を1720年に書いたことで有名です。

標識
ストリープ・ストリートの標識

ジョン・ストウは、シティの仕立て商組合に奉公していたころ、地誌「ブリタニア」(1586年)を後に執筆するウィリアム・カムデン(父親がシティの塗装商組合員) と出会います。カムデンは古文書や遺物の調査で歴史を研究する好古学の第一人者として有名ですが、ストウに加え、英国初の地図師となるジョン・スピードにも大きな影響を与えました。このころから地誌の本には正確な地図が掲載されるようになります。

ストウの像
聖アンドリュー教会のストウの像

ストウは丹念にロンドンの建築物、社会状況、慣習などを細かく調べ上げ、正確な地図を添えて体系的、かつ網羅的にロンドンの歴史の本を書きました。でも文献や地域調査に余りに多額のお金を費やしたため、彼の生活は豊かではなかったようです。ストウが葬られたシティの聖アンドリュー教会内部には、机に向かってペンを持つ彼の大理石像があります。命日の4月5日、この羽根ペンがロード・メイヤーによって交換される儀式が3年毎に行われます。

ブルワー=リットン
ブルワー=リットン。孫は国際連盟リットン調査団長

羽根ペンで思い出されるのが「ペンは剣よりも強し」という格言。原典はエドワード・ブルワー=リットンの戯曲「リシュリュー」(1839年)です。「反逆者には武力を行使しなくても逮捕状に署名すればいい」というのが台詞の意味。概ね日本では「ペン=正義の味方」と解釈されているようですが、当地の辞書には「著述は武力行使より多くの影響を人々に与える」と書かれ、著作物を鵜呑みにしては危ない、と解する人が多いようです。

アンドリュー教会
ジョン・ストウが眠る聖アンドリュー教会

確かに、歴史書には武力より残酷な面があります。戦争の傷なら3代で癒すことが出来ても、歴史書が一旦、恣意的に書き換えられてしまうと元の姿に戻すことが極めて困難。それだけに事実を正確に記録に残し、継承することが大切です。ストウの「ロンドン地誌」は400年以上にわたって、冒頭のジョン・ストリープを始めとする専門家が改訂を続け、見事なリレーが続けられています。たとえリレーの繋ぎ手の家がこの世から消え去っても。

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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