第122回 赤色・青色ダクトと花の色
シティのウッド・ストリート88番地に、ロイズ保険会社の本社ビルやパリのポンピドゥー・センターを設計した英建築家、リチャード・ロジャースが手掛けた建物があります。ここで目立つのが巨大な赤色のダクトと青色のダクト。実はこの場所には1920年代まで世界最大の電話交換所があり、地下の空調設備から暖気を赤いダクト、冷気を青いダクトでケーブル室に送っていました。今も赤いダクトで排気、青いダクトで外気を吸気し、建物全体の呼吸機能を担っています。
巨大な赤と青のダクト
赤と青のダクトを見ていたら、季節柄、紫陽花を思い出しました。英語ではハイドレンジア(「水の器」という意味)と呼び、水が大好きな植物。日本で紫陽花というと、梅雨に咲く紫色が鮮明な花。でもここ英国では、晴天の下に咲くかれんな赤い花、といったイメージです。ちなみに花の色は、植物の持つアントシアニンという色素が、植物体内の酸性度と土壌の金属イオンにいかに反応するかで決まるそうです。昔、酸性が強いと赤くなるってリトマス紙で実験しましたね。確かに梅干しは赤い。
初夏を彩る「水の器」、紫陽花
一般に日本は酸性土壌、英国はアルカリ性土壌と言われます。植物は体内と外界のバランスを取り、酸性の水を吸い上げると体内の液胞のアルカリ度が高まり、アルカリ性の水を吸うと酸性度が高まります。それに土壌の金属イオンが反応して、花の色が変わるのです。花の色が青かったり、赤かったりするのは生命のバランスの結果なんですね。いやいや話はそれで終わりません。花の色や香りは、受粉を促してくれる特定の昆虫にアピールできるよう、虫の好む色や活動時間帯に合わせて何時に咲くかも計算されています。
シティに咲く赤いボタン
マンションハウス近くのクリアリー・ガーデンには2006年に島根県大根島から贈られたボタンが植えられています。本国、日本に負けない大ぶりで見事な赤色の花。その北に見える、聖ポール大聖堂の庭園の藤の花は七分咲き。そうそう、英国最古の藤はロンドン西部、チジックのビール・メーカー、フラーズ醸造所にあります。
英国最古の藤はフラーズ醸造所に
あ、動物もそうです。呼吸で酸素を採り入れると呼吸色素が反応し色を出す。脊椎動物ならヘモグロビンが鉄イオンと反応し血液が赤くなり、甲殻類や軟体動物はヘモシアニンが銅イオンと反応し青くなる。ゴジラの血は赤く、ガメラの血は青い。なぁんだ、生き物が呼吸しながら色を帯びるなんて、冒頭の赤と青ダクトと同じですね。
聖ポールの藤は上品な紫