第137回 カール・フォン・リンネとジェンダー記号
謹賀新年、本年もどうぞよろしくお願い致します。寅七の年初は机の上の整理から始まります。書類の山の中から出てきたのはシティ散策で遭遇した草花の名前が知りたくて走り書きしたメモ。最近は写真を送れば植物名を教えてくれる便利なスマホのアプリがあり重宝していますが、更にスマホをかざすだけでAI図鑑が機能し動物の名を瞬時に教えてくれるアプリも出来ました。その名も「リンネ・レンズ」。18世紀にスウェーデンで活躍した「分類学の父」カール・フォン・リンネからの命名です。
カール・フォン・リンネ
日常では男性を♂、女性を♀で表した記号をよく見かけますが、実はこの記号、リンネ博士が植物の分類に利用して世界に広げたものです。リンネは植物も「結婚」すると考え、雄しべを夫♂、雌しべを妻♀と表して分類しました。それによると植物の結婚は一夫一妻制や一妻多夫制、雄花と雌花が別の株に分かれる夫婦別居型などバラエティーに富んでおりますが、すべての植物をリンネは24の類型に分類しました。
リンネによる雄しべと雌しべの区分(大英博物館蔵)
属と種からなる二名法の分類と階層化が提唱されてから約260年。今や180万種の生物に名前が付けられ、すべてがリンネの分類方法に従っています。それにしても雄しべを♂、雌しべを♀で表すとは斬新なアイデアですが、どこからその記号を思いついたのでしょう。調べてみますと、中世の占星術の惑星記号や錬金術記号にヒントがあったようです。
惑星記号と金属元素
惑星記号と錬金術記号は中世の占星術と錬金術から生まれました。金属の色合いが天体の色と結びつけられ、水星(ヘルメス・水銀・☿)、金星(アフロディーテ・銅・♀)、火星(アレス・鉄・♂)などとなっています。戦闘の神アレスの「荒々しい」(thouros = Θουρος)の短縮文字テータロー(θρ)から鉄が♂、また美の神アフロディーテの「光を運ぶ」(phosphorus = Φωσφόρος )の頭文字ファイ(φ)から銅が♀とされたそうです。
リンネは、火星を男性神、金星を女性神の象徴として、雄しべと雌しべにその記号を当てはめました。♂に鉄、♀に銅の意味があるとは意外ですね。スウェーデンの大手自動車会社のロゴに♂が使われているのはスウェーデン鋼の鉄を象徴しているからです。それにしても性の多様化運動の支援でトラファルガー広場の青信号に使われている⚢や⚣や⚧をリンネ博士が見たら、一体どんな分類をしたでしょう。時代はどんどん変化しています。
鉄=♂のマークの中に社名
トラファルガー広場の青信号