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Mon, 19 May 2025

第290回 英国のビスケットと紅茶

5月29日はビスケット・デーです。なぜその日に設定されたかについては諸説あり、定かではありません。でも、英国人にとってビスケットは紅茶のベスト・パートナーであり、ビスケットをミルク・ティーに浸して食べるダンキングという習慣が社会に根付いています。英国にお茶が広まったきっかけは17世紀半ば、チャールズ2世の王妃、キャサリン・オブ・ブラガンザが緑茶と砂糖を輸入してお茶の文化を上流社会に広めたことに始まります。

キャサリン・オブ・ブラガンザの肖像画 お茶の文化を広めたキャサリン・オブ・ブラガンザ

当時の緑茶は南欧やオランダからの輸入品でとても高価でした。でも、1689年から東インド会社が中国福建省の武夷山ぶいさん地方のお茶を直接、安く輸入し始めました。そのお茶は発酵して茶葉が黒ずんでいたのでブラック・ティーと呼ばれ、渋みが強かったので砂糖だけでなくミルクを入れて飲まれました。これが英国のミルク・ティーとの出合いといわれています。やがて1857年、さらなる出合いがロンドン南部のバーモンジーで起きました。

茶商人のジェームズ・ピーク氏と製粉業者のジョージ・フリーン氏がバーモンジーの製糖工場を買収し、ピーク・フリーンズ社を設立しました。それは、ミルク・ティーとの相性を考えて作られる甘いビスケットの誕生となり、同社は世界的なビスケット会社に成長しました。最初のヒット作は1861年のガリバルディ・ビスケットです。この年にイタリア王国が統一され、統一運動に大活躍したガリバルディ将軍の名が使われました。

ピーク・フリーンズ社の工場跡 ピーク・フリーンズ社の工場跡

ガリバルディ将軍(右上)とガリバルディ・ビスケット ガリバルディ将軍(右上)とガリバルディ・ビスケット

次のヒット作はブルボン・ビスケットです。これはマダガスカル島の東方にあるブルボン島(現レユニオン島)で栽培される高価なココアやバニラ、砂糖をイメージして作られた、ココアやバター・クリームをはさんだココア・ビスケットです。ブルボン島はかつてブルボン王家の属領でしたが、フランス革命後にレユニオン島と改名されました。今でもルイ15世の愛飲した幻のコーヒー「ブルボン・ポワントゥ」を栽培する島といわれています。

ブルボン島(右上)とブルボン・ビスケット ブルボン島(右上)とブルボン・ビスケット

さて、大戦中に砂糖が配給制になると英国では甘いミルク・ティーを楽しめなくなってしまいました。そこで甘味を補うためにビスケットをミルク・ティーに浸して食べる習慣ができたといわれます。でも今のダンキングは甘味の補給というより、ガリバルディ将軍やブルボン王家をミルク・ティーに沈め、とろけた歴史を食べながら甘い郷愁に浸っているのかもしれません。イタリアのビスコッティや米国のドーナッツをコーヒーにダンキングするよりも、紅茶のダンキングには歴史の深い味わいが伴います。

ブルボン・ビスケットをダンキング ブルボン・ビスケットをダンキング

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シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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