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Sun, 24 November 2024

第218回 ツナミ・プランツからのメッセージ

4月29日までチェルシーのサーチ・ギャラリーで行われていた英国王立園芸協会(RHS)主催のRHSボタニカル・アート&フォトグラフィー・ショー2022を訪ねました。今回、ゴールド賞と審査員特別賞を獲得したのが倉科光子さんの描いた「ツナミ・プランツ」です。絵画の素晴らしさに加え、学術的な観点からも非常に重要であると審査員に認められた作品で、確かにこの絵には深いメッセージが込められていると思いました。

倉科さんの作品が審査員特別賞を獲得倉科さんの作品が審査員特別賞を獲得

もともと自生植物の乏しかった英国では、大航海時代にプラント・ハンターが海外から色彩豊かな植物や薬草を持ち帰り、植物に対する姿勢に大きな変化が生まれました。多種多様な植物を栽培し植物研究に生かす一方、自然観察に基づいた緻密でリアルな描写の近代植物画が発展。さらに庭園の発展と共に植物画が王侯貴族の注目を集め、一般人に園芸ブームが起きて植物図鑑が出版されました。植物画は科学と芸術と文化の融合体です。

昔の土壌の種から蘇ったミズアオイを描いた倉科さんの作品(以下同)昔の土壌の種から蘇ったミズアオイを描いた倉科さんの作品(以下同)

さて、展覧会の植物画はその多くが色鮮やかで生き生きと描かれています。ところが倉科さんのツナミ・プランツはどこか懐かしさのようなものを感じ、切なさがこみ上げてきました。東北大震災から2年後、被災地の植物観察に訪れた倉科さんの目の前に現れたのが絶滅危惧の植物の群落でした。声なき植物に大きな変化が生じている、これを正確に記録に残しておきたい。その強い思いに駆られて足かけ7年、ツナミ・プランツが描かれました。

遠くの浜から流れ着いたスナビキソウ遠くの浜から流れ着いたスナビキソウ

津波と地盤沈下により表層の土が消え、奥深く眠っていた土が表面に姿を見せました。農薬により絶滅したと思われていたミズアオイが実は種子を地中の奥深くに残していて、人が避難した荒地に咲き出しました。また、遠い浜に咲いていたスナビキソウや絶滅危惧種のハマエンドウがこの場に流れ着いて咲き出しました。さらに水溜まりにはメダカやアメンボ、トンボが群生し、被災した荒地には豊かな自然が蘇っていました。

防波堤と盛り土で姿を消したハマエンドウ防波堤と盛り土で姿を消したハマエンドウ

ところが、絶滅危惧の植物が蘇生したのもつかの間、最近の急激な復旧工事で再び植物が姿を消してしまいました。復旧工事と環境保護の両立は難しく、共生に向けた配慮や工夫が必要です。ツナミ・プランツは絶滅してしまったのでしょうか。いえいえ、今回も環境のリセットを経験することで遺伝子が交配され、新しい強さを習得して地下に眠ったと考えられます。幻のような一瞬の再会でしたが、いつか再び会うことができるでしょう。

復旧工事と環境保護の両立は常に難しい復旧工事と環境保護の両立は常に難しい

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シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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