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Tue, 19 November 2024

2018年の干支は戌 - 英国・ドイツの働く犬たち

近年、英国の官邸街でネズミ捕獲長として働く猫たちが人気を博し、日本では猫の駅長が地域活性化に一役買うなど、猫がメディアの注目を集めている。しかし、2018年の干支は戌。今年最初の特集では、英国とドイツで人と社会を結び付けるべく活躍している犬に着目したい。盲導犬や警察犬、救助犬など、人々の生活を補助してくれる犬たちの中から、今回は英国の牧畜業に欠かせない存在である牧羊犬と、ドイツの市民の日常生活を支える介助犬をご紹介しよう。

英国の牧羊犬とドイツの介助犬

英国の牧畜業を縁の下で支える
野を駈ける牧羊犬たち

放牧されている羊の群れの誘導や見張りをする牧羊犬は、人間との共同作業をこなす忠実さに加え、自発的な判断力も要求される。牧羊の盛んな英国にあっては人間の大事な仕事仲間だ。更に、牧羊犬は羊の世話ばかりでなく、シープドッグ・トライアルという競技を通して英国の地域コミュニティーを繋ぐ大切な役割も果たしている。今回の特集、英国は働き者の牧羊犬を取り上げたい。

取材団体:The Surrey Sheep Dog Society

1981年に設立された、南東イングランド・シープドッグ協会のサリー支部。メンバーは現在、同地区に在住の酪農業従事者を中心に、100人を超える。地区内の牧場数カ所で、牧羊犬による羊の囲い込みを競い合う「トライアル」を実施。質の高い調教師が多く、同支部のメンバーの中には、国内試合の模様を紹介するBBCの人気番組「ワン・マン・アンド・ヒズ・ドッグ」のコメンテーターや、国際大会のイングランド代表者もいる。
www.surreysheepdogsociety.org.uk

イギリスの牧羊犬

「1人の羊飼いと1頭の犬」

緩やかな丘陵と緑の牧草地、そしてそこに点在する羊の群れは、今も昔も変わらない典型的な英国の田園風景。ロンドンから電車に乗ると1時間もしないうちに、車窓に羊の群れが姿を現すことに驚く人も多いのではないだろうか。ロンドンなどの都市に暮らしていると忘れがちだが、英国は牧羊の盛んな国。昔に比べれば減少したものの、国際連合食糧農業機関(FAO)による2014年の調査では、羊の頭数は欧州一、世界では第7位。「羊の国」と言われるニュージーランドよりも多く、今でも牧羊の伝統は衰えていない。そして、羊の群れを誘導する牧羊犬もまた、英国人にとって羊と同様になじみ深い存在だ。

そんな英国でスポーツとして愛されているのが、牧羊犬の働きを競技として体系化した「シープドッグ・トライアル」。BBCには牧羊犬が羊の囲い込みをするトライアルの様子を放映する「ワン・マン・アンド・ヒズ・ドッグ」(One Man & His Dog)なるテレビの長寿番組もあるほどだ(現在は同局の「カントリーファイル(Countryfile)」の一部として放映)。羊の囲い込みは人間と犬の共同作業であり、そのタイトルからも分かるように、まさに「1人の羊飼いと1頭の犬」の信頼関係の上に成立している。

ローマ時代から存在した牧羊犬

イングランド南東部サリーで牧畜業を営み、牧羊犬の歴史に詳しいテリー・スティーブンスさんによると、英国における牧羊犬の始まりはローマ時代にまでさかのぼる。欧州各地を次々に征服したローマ軍は、自分たちの食糧となる家畜を連れており、その家畜を率いていたのが牧羊犬だった。現在、最も牧羊犬に適した犬種と言われるボーダー・コリーは、白と黒の毛をした中型犬で、イングランド、スコットランド、ウェールズの国境(ボーダー)付近の羊を管理するために品種改良された英国原産の犬。羊を統制することのできる力のある鋭い視線と強じんな体力を持ち、常に好奇心に溢れ、人間の役に立つことに誇りを見い出す性質だという。現在の純血種ボーダー・コリーは、すべてメグという雌犬とロイと呼ばれる雄犬の子孫。1893年に彼らの子である名犬ヘンプが誕生したが、この犬は「空を横切る流星のように飛んでくる、羊の世話をするために生まれてきたような犬」と言われたそう。スティーブンスさんは「ボーダー・コリーは英国の牧畜業界におけるサクセス・ストーリー」と語る。牧羊犬の代わりにドローンを使って羊を管理する人々も現れたが、農業従事者の組合である全英農業者連盟(NFU)は、「良い牧羊犬の方がはるかに優れた仕事をする」としており、まだまだ牧羊犬がお払い箱になる可能性は少ない。

鋭い視線と強い統率力を持つボーダー・コリー 鋭い視線と強い統率力を持つボーダー・コリー

羊の扱いをマスターするまで

犬は社会性の高い動物で、人間の家族と自分が一つの群れを構成していると認識する。群れの中の上位の者に従い、その命令に忠実な行動を取る習性があり、牧羊犬のトレーニングはこの習性を利用したものだ。生後半年から12カ月を過ぎたころにトレーニングを開始。羊を怖がらないように教えるところから始まる。ハンドラー(調教師)は次のような言葉に従うよう根気強く命令を覚え込ませる。

ハンドラーの声を聞きながら、羊を1列に並ばせる牧羊犬ハンドラーの声を聞きながら、羊を1列に並ばせる牧羊犬

Come Bye – 群れの左側へ行け 
Away to Me – 群れの右側へ行け 
Stand – 止まれ 
Lie Down – 止まってふせろ 
Steady – ゆっくりと 
Cast –家畜を一つにまとめろ
Find – 家畜を探せ 
Get Out – 家畜から離れろ
Hold – 家畜が今いる場所から動かないようにしろ 
Bark – 家畜に向かって吠えろ 
Look Back – 群れから離れてほかの家畜を探せ
Walk Up – 家畜に近付け 
That'll do – 戻って来い

最終的に、牧羊犬は10種類以上ある命令を理解し、言われる通りに羊の群れを移動させ、囲いの中に誘導する、という羊飼いの手足に当たる役目を果たせるようになる。また、命令には犬笛(ドッグ・ホイッスル)を使う場合もあるが、これは広大なエリアにいたり風の強いときなど、命令が聞き取れず犬が混乱したり、羊飼いが常に大声を出すことで体力を消耗するのを避けるため。2歳で一人前の牧羊犬としてデビューするのが理想的で、5~6歳が体力・気力ともに牧羊犬の最盛期だという。ベテラン犬になると、なるべく少ない運動量で羊を動かそうと、知恵を働かせるのだとか。

牧羊犬トライアルを見学

羊の囲い込みを競い合うシープドッグ・トライアルは、牧羊犬にとっても人間にとっても趣味と実益を兼ねた週末の楽しみで、英国各地で年間約400回も行われている。今回は南東イングランド・シープドッグ協会のサリー支部が開催したトライアルを見学した。会場となったディーンランド・ファームは、イースト・サセックスの街ルイスの鉄道駅から車で約15分。広々とした丘陵が広がり、公道では馬とすれ違う。牧草地にはハンドラーたちの四輪駆動車が何台も止まっていた。ハンドラーたちの多くがハンチング帽をかぶり、皆、クルックと呼ばれる羊飼い用の長い杖を携えている。足元にはボーダー・コリーが姿勢を正して座り、まさに英国の昔からの伝統を体現したような光景だ。

今回の参加者は約10人で、ほとんどが牧場経営者か農業従事者。この日は「Nursery & Novice」、つまり3歳以下の牧羊犬と見習い犬のためのトライアルで、出場した10頭以上の犬はすべてボーダー・コリーだった。ハンドラーの指示を聞き逃すまいとする様子は、その表情から機敏な四肢の動きまで、私たちがペットとして飼っている犬とは全く異なる。集中力と緊張感の塊のようなその姿からは、牧羊犬の日々の仕事振りが想像できる。

地域コミュニティーを繋ぐ犬たち

牧羊犬は「ワーカホリック」と言われ、たとえ老齢になり引退しても、羊を見掛けたら追おうとしてしまうほど。その一生を自分の職場とも言える農場で送り、地域によっては多くの人間に接しないため、飼い主1人にしか懐かない犬もいると聞く。運動量の激しさから通常のペットの犬より寿命が短いが、飼い主とは非常に強い絆で結ばれている。

多くの牧羊犬が日々の仕事に加え、週末のシープドッグ・トライアルに参加しているが、その生き生きとした表情からは、飼い主と共にフィールドに出られてうれしくて仕方がないといった様子が見て取れる。飼い主であるハンドラーたちは、週末になると皆で集まり、場所を提供し合ってトライアルを開催。当日の審判や羊の世話も全部持ち回りのため、皆が友人同士でコミュニティー・スピリットに溢れている。サリー支部で理事を務め、自身も牧場を経営するマーク・バナムさんは、丘陵を指さして言った。「想像してみてください。こういうトライアルが、今この瞬間、英国中で行われているのですよ」。羊の世話だけではなく、地域コミュニティーを繋ぐ大事な役目も果たす牧羊犬。たとえ技術が発達し牧畜の世界にハイテク化が進んでも、これからも人間と共に羊を追い続けるに違いない。

トライアルの見学者トライアルの見学者も和気あいあいとした雰囲気。子犬たちの中には将来の牧羊犬候補も

英国・ドイツの
犬にまつわる法律や規則

人間と犬が一つの社会で共存するため、英国でもドイツでも、犬に関する法律や規則が存在する。ときには「えっ」と驚くユニークな決まりも。犬と一緒に生活する上で、しっかり把握しておきたい法律や規則をいくつか挙げてみよう。

UK英国

  • すべての犬にマイクロチップを義務付け
    既に法が制定されている北アイルランド以外の地域で、2016年に生後8週間以内のすべての犬にマイクロチップを埋め込み、データベースに登録することが義務付けられた。これを怠ると最高500ポンドの罰金が科せられる。
  • 断耳、断尾の禁止
    断耳は英国全土で禁止。断尾も基本的には禁止だが、警察犬や軍用犬など一部の職業犬に限り認められている。これまで断耳、ß断尾ともに完全禁止だったスコットランドも、2017年6月に法律が代わり、一部の職業犬については断尾が可能になった。
  • 1頭の犬に6回以上出産させてはいけない
    繁殖業者は地方自治体に登録する義務がある。様々な規定が設けられており、1歳未満の雌犬に出産させてはいけない。また、1頭の雌犬に一生のうち6回以上出産させるのも不可、次までに1年以上の間を置く必要がある。
  • 土佐犬を含む4種が危険犬種に指定
    1991年に施行された危険犬種法によると、ピット・ブル・テリア、ブラジリアン・ガード・ドッグ、ドゴ・アルヘンティーノ、土佐犬の飼育が、特定の場合を除いて禁止されている。これらの犬種の繁殖や販売、譲渡も不可。

UKドイツ

  • 殺処分は原則禁止
    動物全般の殺処分は原則禁止。不治の病を患った動物のみが例外とされている。飼い主がいない動物たちは「ティアハイム」という民間の動物シェルターに保護され、引き取り手が見つかれば新たな家族の元へ、見つからなければ無期限で生活することができる。
  • 公共交通機関の同乗が可能
    公共交通機関の同乗可。ドイツ鉄道での犬の乗車賃は、大人料金の半額となる(チケットの種類により違いあり。盲導犬や介助犬などは無料)。ほかにもショッピング・センターやレストラン内で犬がおとなしく待っている姿は、ドイツでは日常の風景だ。
  • 細かい飼育規定がある
    犬も家族の一員という認識が強いドイツでは、詳細な飼育規定がある。例えば犬種などによってケージのサイズやリードの長さ、さらには部屋の大きさまでも決まっている。これらが守られていないと判断されれば最悪の場合、愛犬を没収されることも。
  • 犬税が課せられる
    自治体によって徴収の有無が異なり、金額も変わってくるが、1頭当たり平均100ユーロ(1年間)が課せられ、数が増えるほど高くなる(デュッセルドルフの場合、1頭は年間96ユーロ、2頭は1頭当たり150ユーロ)。闘犬の税金は普通犬種の倍以上になる。

エリザベス女王やショーペンハウアーの愛犬など
英国・ドイツを代表する犬たち

UK英国

  • イングリッシュ・ブルドッグ粘り強く勇敢な英国の国犬
    イングリッシュ・ブルドッグ
    English Bulldog
    雄牛と闘うためにつくり出された中型犬。勇敢で粘り強い様から、第一次大戦時には「ブルドッグ精神」として、英国民が敵に対し不屈の精神で挑むためのプロパガンダにも利用された。第二次大戦時には当時の首相ウィンストン・チャーチルのニックネームでもあった。
  • ウェルシュ・コーギー・ペンブロークエリザベス女王の愛する「動くじゅうたん」
    ウェルシュ・コーギー・ペンブローク
    Welsh Corgi Pembroke
    エリザベス女王が幼少のころから愛し、91歳の現在に至るまで常にペットとして飼い続けているのが、ウェールズ地方原産の小型犬コーギー。女王の周囲に群がるコーギーが一斉に移動していく様子を、故ダイアナ元妃は「動くじゅうたん」と形容した。

ドイツドイツ

  • ジャーマン・シェパード・ドッグ勇敢な性格で警察犬として活躍
    ジャーマン・シェパード・ドッグ
    Deutscher Schäferhund
    第一次大戦での活躍で世界中に知られることとなり、現在では警察犬として活躍している。そのほか警察犬であるドーベルマン、ボクサーもドイツ原産で、これらの犬種は日本でも警察犬指定犬種になっている。
  • プードルショーペンハウアーの愛犬
    プードル
    Pudel
    フランスが原産と思われることが多いプードルは、実はドイツが起源の犬種。ドイツ人哲学者、アルトゥール・ショーペンハウアーが愛犬のプードルを散歩する姿が話題となり、当時のフランクフルトではプードルを飼うことが流行ったそうだ。
 

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