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Mon, 23 December 2024

フリーメイソンの正体とは?

フリーメイソンと聞いて、読者の皆様はどんなイメージを思い浮かべるだろうか。「世界征服を企む秘密結社」といった、何だか怪しげな組織を想像する人も多いのでは?しかし、こういったイメージは、実は現実とはかなり懸け離れたもののようだ。今回の特集では、そういった謎の集団と認識されるまでの経緯を追いながら、フリーメイソンの正体に迫る。(野口 大輔)

フリーメイソンとは?

フリーメイソンは世界最古かつ最大規模の友愛団体である(厳密には、フリーメイソンは各個人の会員のことで、組織はフリーメイソンリーと呼ばれる)。

フリーメイソンは現在、何をしている?

フリーメイソンはロッジと呼ばれる集会場において、儀式や講義を通して、人間の基本的な道徳を学び教え合っている。その中では、仲間そして人類における兄弟愛、個人の尊厳と自由を尊重すること、人間として家族や社会での責任を果たすことなどが強調される(近代フリーメイソンが成立した18世紀初めにおいて、これらの理念は画期的なものであったという)。教育の過程では、様々なシンボルを使用するところに大きな特徴がある。そのことが、人々にとってのフリーメイソンという組織のイメージを謎に満ちたものにしているともいえるだろう。また、社会への貢献を重視するフリーメイソンの信条に基づいて、慈善活動も積極的に行なっている。ちなみに、フリーメイソンの会員同士は、お互いの名前に「ブラザー」を付けて呼び合うらしい。

シンボルマーク
フリーメイソンのシンボル・マーク。直角定規は誠実、公正そして美徳を表す。
コンパスは友情、道徳、兄弟愛を表す。「G」はGod あるいは
The Grand Architect of the Universe「万物の偉大なる建築者」のイニシャル。
また、Geometry(幾何学)との意味も持っている。

フリーメイソンの名前の由来は?

はっきりしたことはわかっていないが、ある歴史家によると、ギルドのメンバーである石工が都市や街といった特定の場所に留まることを求められず、自由に旅に出たり仕事を探したりすることができたからだという。また、「Freestone Mason」という言葉が短縮されたという意見もある(Freestoneとは軟らかく加工しやすい石のこと)。

フリーメイソンって陰謀を持つ秘密結社?

フリーメイソン会報
フリーメイソンでは
会報誌も発行している
日本ではその実態がよく知られていないこともあって、フリーメイソンを何か陰謀を企んでいる組織のように思っている人も多いが、実際のところフリーメイソンの原則や教義は隠されていないし、ロッジの場所が隠されているわけでもない。また、フリーメイソンの会員は自分がフリーメイソンに属しているという事実を明らかにしても問題はない(ただし、他のメンバーがフリーメイソンであるという事実を公開することは禁じられている)。ロッジにおける会合など、活動内容が全て公開されているわけではないこと、また、古めかしい儀式や暗号の使用といったこともあり、その ような憶測を呼ぶようである。

フリーメイソンって政治結社?

フリーメイソンは政治結社ではない。逆にフリーメイソンの集会において政治の議論をすることは禁じられている。よって、組織として特定の政治的な立場を表明することはないし、特定の政党を支持することもない。もちろん、会員個人がどんな政治的信条を持つのかについては自由である。

フリーメイソンって宗教団体?

「我々は宗教団体ではない」と少なくともフリーメイソンは主張する。あくまでも本人の信仰を尊重するとし、逆に会員になるためには、何らかの信仰を持っていることが入会条件になっている。というのも、フリーメイソンにおいては抽象的な概念としての「至高存在」(Supreme Being)があり、例えば儀式の中でも、これを崇めるという行為が存在するからである。しかし、「至高存在」はキリスト教における神ではないし、イスラム教における神でもない。つまり、特定の宗教における神ではない。それゆえに、様々な宗教のバック・グラウンドを持った会員がフリーメイソンに入会し、その理念を共有できるのであろう。

フリーメイソンの組織はどうなっている?

巨大な組織であることから、カトリック教会のようなピラミッド型の中央集権的な組織を想像する人も多いかもしれないが、これは全くの誤解。実際にはそれぞれの国を統括する「グランド・ロッジ」と呼ばれる本部が、他国の本部をお互いに承認し合うことで初めて組織が成り立つ仕組みになっている。フリーメイソンの正式名称が「Free and Accepted(承認された)Masons」であることからも、彼らがこの「承認」という手続きをどれだけ重要視しているかが伺われる。また国ごとの統括組織については、1717年にロンドンにおいて世界最初のグランド・ロッジが誕生。今や世界中に会員を持つまでに拡大したフリーメイソンだが、近代組織としてはロンドンに起源を持っていることになる。

ミーティングでは何が行われている?

ミーティングで行われることは大きく分けて2つある。1つはロッジの運営に関わること。例えば、予算や役員の選出、新しい会員のための投票、その他の報告などである。もう1つは、新しい会員を受け入れるための儀式、ロッジのマスターが就任する際の儀式、役員の任命の儀式など。新しい会員を受け入れる儀式は、フリーメイソンの原則を伝授する若干ドラマチックな部分と、講義によって会員の果たすべき責務について学ぶ部分に分かれる。

ミーティングの様子を描いた挿絵
19世紀に行われたミーティングの様子を描いた挿絵

トレーシング・ボードとエプロンいまだに古めかしい儀式を行なうのはなぜ?

儀式という体験を共有することで、会員同士の結束が強固になると考えられているから。また、ドラマや寓話、そしてシンボル・マークの使用は、フリーメイソンの原則を会員に深く印象付けることになる。この儀式では、多くのシンボルが描かれたトレーシング・ボードと呼ばれる布切れが大きな役割を果たす。かつて儀式では、フリーメイソンの仲間以外に解読されることを恐れ、儀式の内容を書き留めることがほとんど許されていなかった。その代わりとしてシンボル・マークを使っての教育が行われていたわけだ。なお、ロッジに入る際には、石工の作業着であったエプロンを着用することになっている。エプロンのデザインはその階級によって異なる。

写真右上)1825年に制作されたトレーシング・ボード
写真右下)第二次世界大戦中に英国を率いたウィンストン・チャーチル元首相もフリーメイソンの会員であった。写真は彼が儀式の際に着用したエプロン

フリーメイソンの会員に階級はある?

徒弟(Entered Apprentice)、職人(Fellow Craft)、親方(Master Mason)の3階級に分かれている。これらの階級の名称は、フリーメイソンの起源が中世の石工のギルドだったことに由来する。フリーメイソンに入会すると、まずは徒弟からスタートすることになる。入会時および階級が上がる時には儀式があり、会員たちはこの儀式を通して、フリーメイソンをより深く理解し、また結束を深めるのである。

フリーメイソンへ入会するには?

まずは仕事を持った成人男性であること。女性は入会できない。その理由は、フリーメイソンの起源が石工の集団であったということの名残であると言われている。当時、男性と同じ労働を女性が行うことは困難であった。その慣習が今に至るまで続いているのである(ちなみに、フリーメイソンとは別の組織として、女性が参加できる団体がある)。

次に、しっかりとした信仰を持っていること。よって、無神論者は入会できない。宗教はキリスト教、ユダヤ教、イスラム教徒はもちろん、仏教徒でもよい。

入会するためには、会員によって推薦されなければならない。フリーメイソンへの入会はあくまでも本人の自由意思が尊重されるため、会員が勧誘を行うことはない。よって、フリーメイソンの会員になるには、まず会員の知り合いを見つけることが必要である。米国などでは、かなりの数のフリーメイソン会員がいるため、友人や知り合いがフリーメイソンだということも多いらしい。もしも知人にフリーメイソンの会員がいない場合は、各地にあるロッジに依頼して会員を紹介してもらうことが可能なようである。その後、審査を通過して、初めてフリーメイソンの会員になることができる。

Copyright and reproduced by permission of the United Grand Lodge of England

5分でわかるフリーメイソンの歴史

彫刻フリーメイソンの起源

一般的に受け入れられている説としては、中世のイングランド、スコットランド、フランスにおける石工のギルド(職人組合)がある。彼らはゴシック様式の大聖堂や城塞を設計し建設する集団であり、数十年あるいは数百年を要する大プロジェクトを遂行するための特別な技術や知識を持っていた。そして、それらの知識はギルド内部のみにおいて共有され、決して口外されることはなかった。なぜなら、そういった技術や知識は彼らに利益をもたらすものであったからだ。

フリーメイソンをテーマに1754年に製作された彫刻

石工ギルドでのコミュニケーション

ギルドでは、ロッジと呼ばれる集会所においてメンバーに建物を構築するための技術や知識を伝えた。当時はまだ文字が読めない人が多かったため、やり取りはすべて口述。また彼らは暗号を使い、特殊な握手の仕方でお互いが同じギルドの仲間であることを確認したのである。現在においても、お互いがフリーメイソンであるということを暗号や握手によって判断するのは、その名残と考えられる。さらには様々なシンボル・マークを使うことによって情報を象徴的にわかりやすく伝えようとする、というのも彼らの特徴。そのため現在のフリーメイソンにおいても、シンボル・マークはそれぞれ重要な意味を持っていて、儀式や教育の場で大きな役割を果たしているようだ。また、これらのシンボルの多くが石工の使う道具の形をしているのは、当時の名残であろう。

フリーメイソンの衰退と変貌

時代が流れるにつれて教育を受ける平民が多くなり、やがて口述による技術や知識の伝承の必要性が薄れていく。かつて隆盛を極めたゴシック様式の建築もその人気は衰え、建築材料も石より煉瓦が使用されることが増えてきた。つまり石工たちのギルドの仕事における優位性、そして本来の存在意義が急速に失われていったのだ。フリーメイソンのロッジの存続が怪しくなってきた17世紀中頃には、イングランドのフリーメイソンが石工たちの代わりに新たに建築とは無関係の貴族や知識人たちの加入を認めるようになる。これ以降、石工の職人団体としてのギルドであったフリーメイソンが、友愛を目的とする団体に徐々に様変わりしていく。

近代フリーメイソンの誕生

ヨーロッパ随一の大都会へと成長した17世紀頃のロンドンには、多くの人々が仕事を求めて集まってきた。彼らが酒場やコーヒー・ハウスなどで様々な話題を語り合う中で、趣味や関心を同じくする人々によって数多く作られたのが、社交クラブと呼ばれるグループである。フリーメイソンのロッジも、他の社交クラブと同じように酒場やコーヒーハウスでの親睦を深めていくようになった。そういった経緯を経てロンドンに存在した4つのロッジが集まって1717年に統括組織を設立し、近代フリーメイソンが誕生することになるのだ。

世界におけるフリーメイソン

uk英国 英国のフリーメイソンでは、ロイヤル・フ ァミリーが入会することが伝統となっているらしい。ただし、女性の入会は認められていないことから、エリザベス女王はメンバーではないようだ。1967年からイングランドのグランド・ロッジのグランド・マスターには、ケント公が就任している。英国に限らず、王室のある他のヨーロッパ諸国、例えばスウェーデンなどでも、ロイヤル・ファミリーとフリーメイソンの関係は非常に深い。

USA米国 フリーメイソンの会員は米国が世界で最も多い。その中でも、ベンジャミン・フランクリンやジョージ・ワシントンなど米国の建国にたずさわった人の多くがフリーメイソンの会員であった。このことから、米国の基本理念がフリーメイソンの理念に大きく影響を受けているというのは事実であろう。また、歴代の米国大統領の中にもフリーメイソンの会員だった人物は少なくない。

フランスフランス フランス革命の主要人物の多くがフリーメイソンであった。ちなみに、一般にもよく知られるフランスの「自由・平等・博愛」という理念は、フリーメイソンの理念でもある。また米国のニューヨークにある自由の女神像はフランスのフリーメイソンから米国のフリーメイソンに送られたらしい。

日本日本 第二次世界大戦後の日本を統治した連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の総司令官ダグラス・マッカーサー。彼もフリーメイソンであった。また、GHQで日本国憲法の草案作成を担当したメンバーの多くもフリーメイソンだったといわれ、そのため、日本国憲法にフリーメイソンの理念の影響 が指摘される。

オーストリアオーストリア 世界中で愛されている18世紀オーストリアの作曲家、モーツァルトもフリーメイソンであった。彼は、フリーメイソンのための音楽を何曲も作曲している。中でも有名なのはオペラ「魔笛」で、フリーメイソンの儀式に基づいて作曲されたらしい。フリーメイソンのシンボリズムや教義がこのオペラの中で使用されているというのが、現在の通説である。そのため、モーツァルトはフリーメイソンの秘密をばらしたために殺された、という噂もあったほど。

ガイド・ツアー体験記

観光客であふれるロンドンの中心部、コベント・ガーデン。ここにフリーメイソンの総本山ともいえるイングランドのグランド・ロッジがあるのを知っている人は少ないのではないだろうか。実は、ここには一般の人も入ることが可能なのだ。さらに内部には博物館があり、建物内のガイド・ツアーまで行われている。秘密結社と呼ばれている割には、意外とオープンな組織なのかもしれない。そこで今回は、世界に名高いフリーメイソンの謎を解き明かすべく、このガイド・ツアーに参加することにした。

1.いざフリーメイソンの総本山へ!

フリーメイソン総本山 コベント・ガーデンの駅を出て東に歩いていくと、すぐにグランド・ロッジの建物が目に入った。期待と不安を抱えながら建物に近づいていくと、ちゃんと博物館の案内が出ていた。そして、建物に恐る恐る足を踏み入れる。左側から突然声がかかったので振り返ると、そこには老紳士が。ここで博物館に行きたいことを伝えて、受付名簿にサイン。建物内の博物館の場所と、30分後に無料のガイド・ツアーが実施されることを教えてくれる。どことなく語り口も穏やかで、さすがは友愛を信条とするフリーメイソンだと感心する。

写真右上)内部にある豪華な作りの応接間
写真右下)玄関。この先にベールに包まれたフリーメイソンの秘密があるのか?

2.いよいよガイド・ツアーが開始!

ステンドグラスツアー開始を待つ間、博物館の展示を見る。ここには、フリーメイソンの衣装を始めとする様々なコレクションが展示されている。ガイド・ツアーが始まる時間になって、ガイドの老紳士が現れる。ちなみに、ガイド・ツアーは1時間おきにあるようで、この老紳士も「今日3回目で疲れたよ」と冗談交じりに言う。ガイド・ツアーの参加者は意外にも多くて総勢10名。その国籍は米国人の老夫婦が2組4名、ニュージーランドの若者が2人、スペインからの女性が2人、アジア系の女性が1人、そして筆者である。

写真右)内部にはステンド・グラスもあった

3.老紳士ガイドの楽しい説明とともに建物を巡る!

ケント公まずは、簡単なフリーメイソンの概略の説明から始まった。この老紳士はガイド担当だけあって、話もユーモアにあふれていて参加者を楽しませてくれる。いよいよ建物の内部に入ると、最初の部屋には歴代のグランド・ロッジにおけるグランド・マスターの肖像画が。そこには現在のグランド・マスターであるケント公の顔もあった。

写真右)現在グランド・マスターを務めるケント公

ケント公続いて両脇にたくさんの部屋が並んだ幅の広い廊下を通ると、床も壁もきれいに磨かれていることに気付く。さすがフリーメイソン、細部まで手入れが行き届いているな、と妙に感心しつつ歩いていくと、Grand Templeと呼ばれるフリーメイソンの儀式が行われる大ホールの前に辿り着く。ここの天井にはフリーメイソンのシンボルを使った装飾が描かれていることを発見。Grand Templeの入口となっている大きなドアに施された彫刻の説明を終えた老紳士ガイドが、ついにそのドアを開ける・・・・・・。

写真右)手入れの行き届いた廊下。さすがにしっかり管理されている

4.フリーメイソンのメンバーも大感激の Grand Temple!

いよいよGrand Templeへ入室。3方から座席に囲まれていて、約1700人収容ということだ。東側には、グランド・マスターの堂々とした席が置かれている。天井を見上げると、そこにはフリーメイソンの特徴であるシンボルが描かれていて、ガイドの老紳士がその象徴的な意味を説明してくれた。もっとおどろおどろしい空間を予想していたのだが、部屋の作りは意外とシンプル。しかし、この中でフリーメイソンの儀式が行われる時には、その雰囲気はまるで違ったものとなるのだろう・・・・・・。ちなみに、このGrand Templeの場所を使って映画の撮影やコンサートが行われたりすることもあるそうだ。

天井
グランド・ロッジに向かう階段の荘厳さは圧巻の一言

ところで、ツアー参加者の米国老紳士2人は、このGrand Templeに入ってから興奮気味。というのも、どうやら彼らはフリーメイソンらしい。フリーメイソンの総本山グランド・ロッジを訪ねることができて、感激している様子であった。そして、ガイドの老紳士が呼びかけるまで、ひたすら写真を撮りまくっていた。フリーメイソンの人にとっては、それほどまでに大切な場所ということなのだろう・・・・・・。

以上でツアーは終了。残念ながら、我々はフリーメイソンの核心ともいうべき儀式を見ることができない。また今回の取材ではメディア関係者による写真撮影にも制限がかかったため、内部についてもそのすべてを公開できたわけではない。フリーメイソンの存在に少しでも興味を持っていただけたのであれば、やはり実際にこの博物館を訪ねて、ガイド・ツアーに参加してみてはどうだろう。

Freemasons' Hall
住所 60 Great Queen Street London WC2B 5AZ
TEL 020 7395 9257
website www.grandlodge-england.org
開館時間 月~金(10:00~17:00)
ガイド・ツアー 月~金
(1日5回11:00、12:00、14:00、15:00、16:00)
*写真付の身分証明書(パスポートなど)の提示を
求められる場合あり。
入場料 無料
 

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