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Tue, 19 November 2024

これであなたも即席目利き - 銀製品の見方と豆知識 英国シルバー読解術

常に街のどこかでマーケットが立つ、アンティークの都、英国。あちらこちらに佇む骨董屋では、色とりどりの陶器や古い家具、絵画にペンにボタンまで、ありとあらゆる品物が次のご主人様を待っている。そんななか、雑多な品々に紛れて鈍い光を放つ、シルバー製品に目を奪われたことはないだろうか。マーケットでは散ばらで売られていることも多く、見方さえ心得ていれば意外な掘り出し物に出合えることも。本特集では、英国シルバー製品の見方をご紹介。製品の背景が分かれば愛着もわくというもの。目利き気分で宝探しに出掛けよう。
(取材・文: Shoko Rudquist)


英国が誇る高品質シルバーの歴史

英国シルバー製品の「ホールマーク」って?

英国のシルバー製品は、古くから、世界に誇る品質を保っているとされる。それは、数百年以上前から国単位で厳格な品質管理が行われ、厳正な審査にのっとった品質保証マークである「ホールマーク」(Hallmark)が各製品に刻印されてきたからだ。まずは、英国シルバー製品を見る上で最も重要な要素の一つと言える「ホールマーク」についてみていこう。

刻印左)シルバー製品の品質保証マークを付ける際に使われる刻印機 
右)手作業で刻印されている

鍵は純度

英国ではゴールドと並び、ローマ時代から希少な貴金属としてもてはやされてきたシルバー。その価値の高さから12世紀にはすでに取引法が定められ、14世紀になると銀の含有率が92.5%を超えるものだけを正式なシルバー製品とする、という決まりもできる。日本でも耳にすることの多い「スターリング・シルバー(Sterling silver)」とは、この純度を持つシルバー製品のこと。欧州各国では、純度80%や83%のものもシルバー製品として扱われるなか、英国では一貫してこの純度が保たれている。英国製のシルバー製品が世界にそのクオリティーを誇るのは、この厳格な制度のおかげだ。

そしてこのころから、各製品は生産者により品質が保証されていることを示す刻印が押されるまで出荷が許されなくなる。これが、「ホールマーク」の始まり。15世紀にはそれに日付を示す文字も加わる。つまり、この時期以降に製造された製品のうち現存する英国産シルバー製品のほとんどは、いつ誰がどこで製造したかが分かるということだ。ただ残念なことに、17世紀以前に使用されていたシルバー製品のほとんどは戦争の際に武器の原料として再利用されたため、現存しているものは少ない。

地域によって微妙な違いがあったホールマークの図柄が全国で統一されたのは、「ホールマーク法」が施行された1975年のこと。そしてこの法により、7.8グラム以上の重量がある全てのシルバー製品は、ホールマークを刻印しない限りシルバー製品と呼んではいけないことに。以来、英国内で流通する全てのシルバー製品には、必ずホールマークが押されることになったのだ。

アセイ・オフィス

厳格な分析・鑑定を行い、ホールマークを刻印することのできる機関は、国によって定められている。アセイ(試金)・オフィス(Assay Office)と呼ばれるこの機関は現在英国内に4つ。1300年から鑑定を行い、1327年には国内初のアセイ・オフィスとして認知されたロンドン・オフィス、教会や家庭で使用される銀器が盛んに製造され、15世紀から鑑定が行われるようになったというエディンバラ・オフィス、1773年の創立時にはシルバー製造業が国内で最も栄えていたというバーミンガム・オフィス、そして燭台の製造で名を馳せ、バーミンガムと時を同じくして創立されたシェフィールド・オフィスがそれらになる。このほかにも、ヨーク、ノリッチ、エクセター、ニューカッスル、チェスター、グラスゴーといった街にもオフィスは存在したが、それぞれすでに閉められている。

The Goldsmiths' Companyロンドン東部にあるアセイ・オフィス、ザ・ゴールドスミスズ・カンパニー

現存するほとんどのシルバー製品には、上記のアセイ・オフィスによる刻印が押されている。マークはそれぞれのオフィスによってデザインが異なり、どの街で鑑定された製品かが一目瞭然。併せて押される日付を示す文字(デート・レター)などまで読むことができれば、いつどこで生産され、品質が保証されたかがはっきりするという非常にシステマティックな仕組なのだ。

ホールマークを読み解く

それでは、具体的にどうすればホールマークが読めるのだろう。1975年の法制定以降、ホールマークは、基本的に下のような形で並んでいる。左から、「メーカーズ・マーク」「スタンダード・マーク」「メタル&ファインネス・マーク」「アセイ・オフィス・マーク」「デート・レター」だ。ここからは、これらのマークを詳しく説明していこう。

ホールマーク

1メーカーズ・マーク

それぞれの生産者のマーク。通常、メーカーの名前が2、3文字のアルファベットに短縮された形で表されている。

2スタンダード・マーク

シルバー含有率92.5%を超える「英国品質」を保証するマーク。スターリング・シルバーと呼ばれるのはこれ(1974年ごろまでに製造されたものは、王冠をかぶったライオンの顔の場合も)。1975年以前のものには「ブリタニア像」と呼ばれる女性の全体像(純度95.84%)が押されていることもあり、ブリタニア・シルバーと呼ばれている。

3メタル&ファインネス・マーク

シルバーの純度を表すマーク。

800 純度80%
925 純度92.5% スターリング・シルバー
958 純度95.84% ブリタニア
999 純度99.9% いわゆる純銀

4アセイ・オフィス・マーク

どこのアセイ・オフィスでホールマークが押されたかが分かる。

アセイ・オフィス・マーク

レオパード
ロンドン・アセイ・オフィス。1327年、英国で初めに分析鑑定の専門組織として承認されたオフィス。1697〜1719年は横向きのライオンが代用された。


バーミンガム・アセイ・オフィス。シルバー製品の名産地だったことから1773年に創立。1973年の製品には創立200年を記念した特別印が押されている。ちなみに、錨マークが横向きになっていればその品はゴールドかプラチナだ。

ヨーク・ローズ 
シェフィールド・アセイ・オフィス。燭台の名産地として有名に。1974年12月までは王冠のマークを使用していた。

城 
エディンバラ・アセイ・オフィス。シルバーの分析鑑定に関しては、15世紀半ばからの歴史がある。

5デート・レター

アルファベットと枠(盾の形)の組み合わせ。大文字だったり小文字だったり、ブロック体だったり飾り文字だったりと、さまざまなデザインで表される文字を、これまたさまざまな枠(盾)の形と組み合わせ、何年に刻印が押されたかを示す仕組み。ただしロンドン以外のオフィスでは、1999年以降はこの刻印付けが省略されている。


これらのホールマークの組み合わせ次第で、いつ、どこのメーカーが作った製品か、そしてその品質までがはっきりと分かるというからくり、分かっていただけただろうか。また上記のほかにも、女王の即位記念日などがある年には「コメモレーション・マーク」が刻印される。

ただし、特にメーカーズ・マークとデート・レターに関しては、その種類が相当数に上るため、興味のある方にはオンライン・ショッピングのアマゾンなどで5ポンド程度で購入できる、ホールマークの種類を図解したポケット・サイズの本がお勧め(Antique Marks by Anna Selby : Collins Gemシリーズなど)。小さめサイズなら、マーケットでの宝探しの際にも重宝する。また各地のアセイ・オフィスでも鑑定を受け付けているので、相談してみてもいいだろう。

英国シルバー、デザインの変遷

英国における、各年代の代表的なシルバー製品のデザインを紹介。
*カッコ内の記述は制作年と作者名
*画像 ©The Goldsmiths’ Company

1450 銀の大杯 ©The Goldsmiths’ Company銀の大杯 (1460、製作者不明)
1550 ©The Goldsmiths’ Company1559年の戴冠式でエリザベス1世が使用したと伝えられているカップ(1554、製作者不明)
1650 お粥用ボウル©The Goldsmiths’ Company お粥用ボウル(1667、製作者不明)
1700 チョコレート用ポット©The Goldsmiths’ Company チョコレート用ポット (1717、Joseph Ward)
1750 コーヒー・ポット©The Goldsmiths’ Companyコーヒー・ポット(1796、Henry Chawner)
1800 ティー・セット©The Goldsmiths’ Companyティー・セット (1850、J. Angell)
1850 トレイ©The Goldsmiths’ Company日本的な装飾が施されたトレイ (1877、Elkington & Co.)
  ワイン入れ©The Goldsmiths’ Companyワイン入れ(1880、Hukin & Heath)
1900 ボウル ボウル (1902、C.R. Ashbee for the Guild of Handicraft)
  蓋付きボウル(1931、H.G. Murphy)©The Goldsmiths’ Company蓋付きボウル(1931、H.G. Murphy)
1950 燭台©The Goldsmiths’ Company燭台(1958、Robert Welch)
1960 ボウル©The Goldsmiths’ Company昆虫を彷彿とさせる デザインのボウル (1962、Gerald Benney)
1990 エナメル加工された皿(1999、Jane Short)
2000 ボウル©The Goldsmiths’ Company古代エジプトの女神、イシスの名が付けられたボウル(2011、Abigail Brown)
 

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*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

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