2011年3月11日以降、日本の国内外で多くの著名人が
東日本大震災の被災者支援のため、立ち上がった。
チャリティーという概念が欧州ほどには浸透していなかった日本において、
歌手や俳優、タレントなど、常日頃から人々の関心を集める著名人が前面に出ることにより、
多くの収益が生み出され、こうした動きは今もなお、活発に続いている。
東日本大震災1周年企画、インタビュー・シリーズの第2回。
今回は2回にわたり、欧州の地から音楽というツールを使って
被災地支援のため、粉骨砕身するアーティスト2人に焦点を当てる。
1968年1月23日大阪府生まれ。90年、東京藝術大学在学時にKRYZLER & KOMPANYのヴァイオリニストとしてデビュー。96年に解散後はソロで活躍。同年10月、セリーヌ・ディオンのワールド・ツアーに参加し、世界的知名度を得る。2002年には「アーティスト自身が自由に創作できるレーベル」、HATSを設立。以降はプロデューサーとしても活動するほか、画家としての顔も持つ。現在は日本と英国に拠点を置き、多彩な活動を行っている。11年8月には、これまでの音楽活動の集大成となるベスト・アルバム「THE BEST OF TARO HAKASE」を発売。第26回日本ゴールドディスク大賞インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞した。
東日本大震災発生直後、葉加瀬さんは5日間で計7回のチャリティー・コンサートを開催されました。その行動のあまりの早さに驚かされましたが、葉加瀬さんは以前から、チャリティー活動に関心があったのですか。
これまでも音楽や絵画を通じてチャリティー活動をさせていただいたことは何度もありますが、ここまで自分自身が動いたのは今回が初めてです。
震災発生後はロンドンの在英邦人の中にも非常に緊迫した空気が流れていた時期がありました。「こんなときに音楽を聴いていていいのか」と疑問に思いながら葉加瀬さんのコンサートに行き、心が一気にほぐれたと言う方がいて非常に印象的でした。
音楽家として何ができるかを考えたとき、音楽で人々の気持ちを一つにするしかない、と考えたまでです。音楽の力は、無限大だと感じています。昨年の3月11日以降、ロンドンにいる人たちが皆、日本のために何かしたいと思っていたはずです。僕がチャリティー・コンサートをすることで、そう思っている人たちの力を1カ所に集め、ともにつらい気持ちを分かち合い、励まし合い、日本の為に今、それぞれが何をできるのかを考える時間になればいいと思いました。
コンサートには娘さんの向日葵(ひまり)さんもヴァイオリン演奏で参加されたとうかがいました。これは向日葵さんのご希望だったのですか。
震災直後のコンサートは、娘が喜んで参加すると言ってくれたので実現しましたが、もともとは僕と家内の意向でした。チャリティー活動の意味を体で理解し、実践してほしいと思ったからです。震災の後、僕が日本に帰ってからも、娘はほかの演奏家たちと色々なチャリティー・コンサートを続けてくれました。
チャリティー・コンサートということで通常のコンサートとは異なる曲目を選ぶといったことはありますか。
特にはありません。昨年は準備期間がなかったので、手元にある譜面をかき集めて、ほぼ、ぶっつけ本番です(笑)。今年は、ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック(英国王立音楽院)の学生ストリングスと一緒に僕のレパートリーを演奏したり、ヴァイオリニストの小野明子さん、僕と一緒にずっと演奏してくれているピアニストのマチェック・ヤナス君、ソプラノ歌手のせいあ Leeさんとのコラボを行うなど、活動に賛同してくれるアーティストと共演することにしました。ゲストのレパートリーに僕が参加するなど、盛りだくさんなコンサートになると思います。今回(3月11日カドガン・ホールで開催)は、僕のオリジナル曲とクラシックの小品ばかりです。クラシックのソナタなどは、通常のコンサートのときに改めてじっくり聴いていただければと思います。
音楽家や俳優などの方たちの中には、被災者救援において表立った活動をすることで、宣伝目的のような意味合いに受け取られる危険性を感じ、慎重な姿勢を示している人もいるようですが、葉加瀬さんにこうしたためらいはありませんでしたか。
震災直後は、そうしたことを考える時間さえありませんでした。今思えば、多くの音楽家や俳優、歌手、アイドルたちが率先してチャリティー活動を行ったことが、多くの一般の方々がチャリティー活動に参加するきっかけにもなり、日本の復興を支える原動力の一つになっている気がします。
震災以降、日英で様々な活動をされたとうかがっています。どのような活動をされたのか、具体的に教えてください。
震災直後の日本でのコンサート・ツアーでは、向日葵の種を配って夏には日本中に向日葵を咲かせ、日本を元気にしよう! という趣旨のキャンペーンや、「SMILE for YOU」という、日本中の笑顔の写真をウェブサイトで掲載したりコンサートのステージで映像を流したりするキャンペーン、また、避難所に向けてのライブイマージュ*の生中継や、被災地にピアノを贈る為のチャリティー・コンサート、被災地の子供たちの無料サマー・キャンプでの演奏など、僕にできる限りのことはやりましたし、これからもやっていこうと思っています。
震災発生から一年が経とうとしています。今後の被災地支援に関する葉加瀬さんの考えをお聞かせいただけますか。
まずは決して、あのときの衝撃、つらさ、悲しさ、悔しさを忘れないようにしていきたいと思います。そして、あのとき感じた気持ちを伝えていきたいです。またようやく復興しつつある被災地で、劇場の環境が整ったところから順に回って演奏していきたいと考えています。仮設住宅にお住まいの方々、被災者の方々をたくさんご招待して、気持ちの安らぐ時間を共有できればと思います。
*葉加瀬氏が毎年行っているヒーリング系のオムニバス・コンサート