ニッカーボッカー・グローリー
Knickerbocker Glory
「ニッカーボッカー・グローリー」この名前を聞いて、これが食べ物だと分かる人がいるでしょうか。本誌1442号でご紹介した「トード・イン・ザ・ホール」も衝撃的でしたが、ニッカーボッカー・グローリーは、一体、何と訳せばよいのでしょう? ニッカーボッカーは膝下までのズボンを意味するので、「膝下丈ズボンの栄光」? これでは本当に何のことだか分かりませんよね。
この食べ物は「ハリー・ポッターと賢者の石」に登場していて、翻訳者の松岡祐子さんは「チョコレート・アイスクリーム」と訳したようです。彼女はあるエッセイの中で、生活習慣に深く根ざしたものは理解しにくく、したがって訳しにくい。中でも食べ物はカタカナで音訳しようが和訳しようが、食べたことのない人には分からない。そして、特にニッカーボッカー・グローリーは曲者だった、と告白しています。翻訳者泣かせの英国の食べ物。その正体は長いガラス容器にアイスクリームとフルーツ、生クリームの入った、日本で言うところのパフェです。
20世紀前半に特に人気だったもので、「伝統的」英国フードと呼ぶにはやや歴史が浅いのですが、英国人の多くが、これに子供時代の思い出を重ねると言います。というのも、この豪華なアイスクリーム・デザートは、ホリデーや家族でのお出掛け時などにだけ特別に食べさせてもらえたもの。だからこそ人々の記憶にくっきりと残り、誰もがこのパフェにノスタルジックなイメージを重ねるのでしょう。「子供のころ、名前は知っていたけれど、食べさせてはもらえなかった。だからどうしても食べたくて、18歳になったとき、自分のお金で初めてニッカーボッカー・グローリー食べたときはうれしかったなぁ」なんて思い出を語ってくれたのは50代の友人クリスでしたっけ。
私がこの食べ物を知ったのは、2015年にBBCで放映された「Mary Berry's Absolute Favourites」でした。番組ではメアリーが子供のころに海辺のアイスクリーム・パーラーで食べた思い出のニッカーボッカー・グローリーを紹介。ひなびたビーチ・リゾートというのが大好きな私は、それを観て以来「英国の海辺にあるアイスクリーム・パーラーでニッカーボッカー・グローリーを食べる」というのが念願となっています。残念ながらそれはまだかなっていませんが、先日、ロンドンのフォートナム & メイソンでニッカーボッカー・グローリーを初体験してきました。同店2階にある「ザ・パーラー」では、12ポンド(!)で、このパフェがいただけます。ラズベリー・ソースが絡んだバニラとイチゴのアイスクリームにパイナップルのかけらがゴロゴロ。上には焦げ目の付いたメレンゲが帽子のようにかぶさって、てっぺんにはちょこんとラズベリーが載っていました。
毎年、あっという間に過ぎ去っていく英国の夏。今年の分が終わってしまう前にぜひ、このデザートをお試しあれ。
ニッカーボッカー・グローリー(1人分)
材料
- バニラ・アイスクリーム ... 適量
- フルーツ缶詰 ... 適量
- ラズベリー(生) ... 適量
- ブルーベリー(生) ... 適量
- 市販のデザート用フルーツ・ソース(好みの味)... 適量
- 市販のホイップ・クリーム ... 適量
作り方
- パフェ用グラス(または大きめのワイン・グラスなど)の底にフルーツ・ソースを入れる。
- ❶の上から缶詰のフルーツを入れる。
- ❷の上からアイスクリームを入れる。
- ❸の上にベリー類を入れる。
- ❹の上にホイップ・クリームを絞り出す。
- ❺の上からフルーツ・ソースをかけ、ベリー類を散らして 出来上がり(最後にウエハースを添えても)。
memo
入れる材料も分量も、好みで調整してください。簡単で楽しいので、夏休みにお子さんと一緒に作ってみてはいかがでしょう。