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Fri, 20 December 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 46

シェパーズ・パイ
Shepherd's Pie

Shepherd's Pie

もうすぐイースターですね。英国ではクリスマスに次いで重要なイベントとも言われ、家族そろってイースター・ディナーを食べる人たちも少なくありません。クリスマスではロースト・ターキーというのが一般的ですが、イースターにはロースト・ラムを食べるのがこの国の定番です。

ごちそうはケチケチせずにたくさん準備する、というのはどの国でも同じなのでしょうか。作りすぎゆえか、ロースト・ディナーの後には、たいてい「レフトオーバー」と呼ばれる食べ残しが発生します。

義母の実家ではロースト・ターキーの残りはカレーにしたそうです。そして、ロースト・ラムのレフトオーバーは「シェパーズ・パイ」にリメイクしていたと言います。

シェパーズ・パイとは、ラムのひき肉にみじん切りの玉ねぎや人参を炒めて混ぜ、ストックやハーブなどを加えて煮込んだのを、上からマッシュ・ポテトでふたをしたもの。それを表面にこんがり焼き色が付くまでオーブンで調理します。熱いうちに「はふはふ」言いながら食べたい、お腹も心もほっこりする料理です。

「パイ」という名前なのに、パイ生地代わりにジャガイモを載せるのに、初めはびっくりしました。でも今は、この組み合わせを考えた人には「マスター・シェフ」の称号をあげたいくらいに素晴らしいアイデアだと思います。

コクのある肉とソースを、舌溶けまろやかでクリーミーなポテトが受けとめ、それが口の中で一体化。焦げ目のさくさく加減が香ばしさとともにアクセントとなって、お皿にてんこ盛りのシェパーズ・パイはあっという間にお腹に収まってしまいます。

それにしても、パイ生地の代わりにジャガイモを使うだなんて、英国人は根っからのジャガイモ好きだな~と思いませんか。

そのジャガイモが英国にもたらされたのは16〜17世紀と考えられています。そして、一般の食卓でよく食されるようになったのが18世紀ごろ。そのため、シェパーズ・パイが登場したのも、その時代ではないかと言われています。

ところで、ご存知のように「シェパード(shepherd)」とは羊飼いの意味です。それが料理名に付いていることから想像できる通り、シェパーズ・パイの起源はスコットランドや北イングランドなど、羊をたくさん飼っていた地域。先ほど、18世紀に登場した料理と言いましたが、「シェパーズ・パイ」の名で呼ばれるようになったのは、肉ひき機(ミンシング・マシーン)が家庭で一般的に使われるようになった1870年代だそう。「この肉ひき機で、羊飼いをミンチにして料理したのがシェパーズ・パイだよ」などという笑えないイングリッシュ・ジョークもあるとか、ないとか……。

そうそう、混同されがちな「コテージ・パイ」は、羊の代わりに牛肉が使われたものを指します。

シェパーズ・パイの作り方(4~6人分)

材料

  • ラムひき肉 ... 500g
  • 玉ねぎ ... 1.5個
  • 人参 ... 2本
  • にんにく ... 1かけ
  • ラム(またはビーフ)ストック ... 200ml
  • タイム(ドライ) ... 小さじ1
  • 塩・胡椒 ... 適量
  • サラダ油 ... 適量
  • 小麦粉 ... 大さじ1
  • ウスターシャー・ソース ... 適量
  • 【マッシュポテト用】

  • ジャガイモ ... 800g
  • バター ... 50g
  • 牛乳 ... 100ml
  • 塩・胡椒 ... 適量

作り方

  1. フライパンに油をひき、みじん切りにした玉ねぎ、人参、にんにくを炒める。
  2. ❶にラムひき肉を加えてさらに炒める。
  3. ❷にタイムを加え、塩・胡椒で味付けする。
  4. ❸に小麦粉を振りかけて混ぜ、ストックを加えて煮込む。
  5. 煮汁に汁気がなくなり、とろみが付くまで煮込んだら味見をして、ウスターシャー・ソース、塩・胡椒で味を調える。
  6. ゆでたジャガイモにバター、牛乳を混ぜ、マッシュ・ポテトを作る。
  7. 耐熱皿に❺を敷き詰め、上から全体に❻を重ねる(表面はツノを立たせたり、フォークで模様をつけても)。
  8. 200℃に余熱したオーブンで、表面に焦げ目が付くくらい20~30分焼く。
memo

ラムひき肉は、レフトオーバーではなく生のものでももちろん大丈夫。好みで上からチェダー・チーズをかけて焼いてもおいしいです。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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