ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Tue, 08 October 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 82

コッカー・リーキー・スープ
Cock-a-leekie Soup

Cock-a-leekie Soup

「アイ・ドント・ウォント・コッカー・リーキー、アイ・ドント・ライク・コッカー・リーキー!」

ロアルド・ダール原作の映画「ジム・ヘンソンのウィッチズ/大魔女をやっつけろ!」(1990年英公開)で、スコットランド人俳優ビル・パターソンが、ローワン・アトキンソン扮するホテルの支配人に向かって言ったセリフです。身なりをきちんと整えた紳士が、スコットランド訛りでまくしたてる様子がコミカルで、印象的なシーンです。

ここで出てくる「コッカー・リーキー」、不思議な名前ですが、これは、スコットランドの国民食とまでいわれるスープです。当地では特に、11月30日のスコットランド守護聖人を祝うセント・アンドリューズ・デーや、スコットランド詩人ロバート・バーンズの生誕を祝うバーンズ・ナイトの前菜として食べる習慣があるそうです。

「コック」とは雄鶏のこと。「リーキー」は日本ではポロねぎと呼ばれる太めの長ネギ、リーク。つまりこれは、チキンとリークを煮込んだシンプルなスープ。ただし、ちょっと珍しいものが隠し味として使われています。それは、甘くて黒々つやつやしたドライ・フルーツのプルーンです。

件の映画では、パターソンが、お皿に入ったコッカー・リーキー・スープをスプーンですくう場面で、一瞬だけスープが映ります。そこにうっすら黒っぽいものが浮かんでいます。多分これがプルーンではないかと思います。だって、映画の小道具としてコッカー・リーキーをきちんと再現したのなら、このプルーンを忘れるはずがありません。

実際に作ってみると、クリアなチキン・スープに浮かぶ黒いプルーンは、一瞬、しいたけか、きくらげのようにも見えます。でも、口に含めば確かに食べ慣れたあのドライ・フルーツ。鶏肉の出汁と塩・胡椒、そこにプルーンのほのかな甘みが味に奥行きを与え、まろやかな口当たりです。

コッカー・リーキー・スープについての最も古い記録としては、1598年にファインズ・モライゾンという人物がスコットランドを旅したときの記述があるそうです。そこには「若鶏とプルーンの入ったスープ」と書かれていたといいます。

また、スープにフルーツを加えるのは、中世によくあった料理法だといわれ、それはフランスからの影響だという説もあるそうです。

18世紀以降の伝統的レシピとして残っているものの中には、プルーンの代わりにレーズンを入れるものがあったり、鶏だけでなく、牛肉で出汁をとるものもあります。また、スープのかさを増して満腹感を得るために、米、オーツ麦、大麦などを加えるレシピなどもあり、元がシンプルなスープだけに、そのバリエーションも多岐にわたっています。

街では既にクリスマス用品が売られ始め、フリースや毛布が必要な季節が到来している英国。珍しいドライ・フルーツ入りのスープで、体を温めるのはいかがでしょう。

コッカー・リーキー・スープの作り方(4人分)

材料

  • 鶏肉(レッグまたはドラム・スティック) ... 500g
  • リーク ... 2本
  • 水 ... 1.5ℓ
  • ベイリーフ ... 2枚
  • 黒胡椒(ホール) ... 10粒
  • プルーン ... 6個
  • 塩・胡椒 ... 適量

作り方

  1. 鍋に鶏肉、リークの濃い緑色の部分、水、ベイリーフと黒胡椒(この2つは使い捨てティーバッグなどに入れると、あとの処理がラク)を入れ、水が沸騰したら火を弱め、途中でアクをすくいながら45分ほど煮込む(鶏肉に完全に火が通るように)。
  2. いったん火を止めて、鶏肉、リーク、ベイリーフと黒胡椒のすべてを鍋から取り出す。
  3. リークの白い部分を食べやすい大きさに切ったものをスープに入れて、塩・胡椒をし、10分ほど煮込む。
  4. 鶏肉の骨を外し、身を食べやすい大きさにほぐして❸に入れる。
  5. ❹と同時に半分に切ったプルーンもスープに入れて、更に5分ほど煮込む。
  6. 味見をして、足りなければ塩・胡椒を加え、味を調えたら出来上がり。
memo

コッカー・リーキー・スープは、サンデー・ディナーのロースト・チキンの残りの肉と、その鶏ガラでとったスープ・ストックを使っても作れます。お米を入れると、日本で鍋料理の後に作る雑炊に似たものができます。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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