ジンジャーブレッド・マン
Gingerbread Man
この原稿を書いているのは12月の初めですが、ご近所の家々の玄関先にはフェアリー・ライトと呼ばれる電飾がきらめき、義母からは、既にクリスマス・プレゼントの買い物を済ませたとの報告がありました。毎年のことながら、クリスマスにかける英国人の情熱(?)には驚かされます。
この時期に友人の家を訪ねると、紅茶と一緒にミンス・パイが登場するのも定番です。ソファに座っておしゃべりしながらツリーに目をやると、人型のビスケットがぶら下がっています。「ジンジャーブレッド・マン」です。最近では「ジンジャーブレッド・ピープル」とも呼ばれているようですが、名前の通り、ジンジャーの風味がほんのり効いたビスケット。丸い頭にぽっちゃりめの手と足がついています。
友人のサラが「子供たちと一緒に焼いたのよ」とうれしそうに教えてくれた、3歳と5歳の兄弟がアイシングしたと思われるそのジンジャーブレッド・マンは、目の大きさが左右で違っていたり、笑顔の口が顔からはみ出しています。でも、それがなんとも愛らしく、クリスマスを楽しみにしている子供たちのワクワクした気持ちが伝わってきます。
十字軍によってもたらされたという「ジンジャーブレッド」は、14世紀以降の料理書であれば、たいてい一つか二つはレシピが登場するというほど、英国では伝統ある馴染みの深い食べ物。かつて、そのジンジャーブレッドで作られた人型は、現在のキュートな幼児のような形とは随分と違っていました。
シェイクスピアの時代に作られたという、ジンジャーブレッド・マン用の木型。それを見る限りでは、繊細な模様が施された衣服をまとった高貴な男性や女性の人型は、食べるのが惜しいほどの美しさ。日本でも、落雁など意匠の美しい和菓子を作るための菓子木型がありますが、モチーフの違いはあれ、その精緻さ、クリエイティビティーには日英両国に共通するものがあるように思えます。
17世紀のレシピでは、砕いた胡椒にハチミツ、パン粉、ジンジャー、シナモン、そしてレッド・サンダルウッドを混ぜて火にかけ、全体をよく混ぜて、冷めたものを手でこね、生地を作ります。それをこの木型に押し付けるようにして型取り、できたジンジャーブレッド・マンを、暖炉の前に置いて硬くなるまで乾かしていたと言います。ジンジャーブレッドという名前がついたのは、パン粉が使われていたからでしょう。その後、パン粉に代わって小麦粉が使用されるようになり、しっとりと柔らかいタイプになりました。
ちなみに現代のジンジャーブレッドは、ブラック・トリークルと呼ばれる黒い糖蜜が入った、しっとりコクのあるケーキ風のものを指すことが一般的。ジンジャーブレッド・マンとは、形はもちろん食感も若干違います。英国にはほかにもジンジャーブレッドの仲間といえるお菓子が色々あります。それらもまた機会に改めてご紹介したいと思います。
ジンジャーブレッド・マンの作り方
(約13センチの型 約15個分)
材料
- 小麦粉 ... 350g
- ソフト・ブラウン・シュガー ... 175g
- ジンジャー・パウダー ... 小さじ2
- 重曹 ... 小さじ1
- 製菓用ミックス・スパイス ... 小さじ1
- バター(常温に戻したもの) ... 125g
- 卵 ... 1個
- ゴールデン・シロップ ... 大さじ4
- アイシング(デコレーション)は好みの材料で
作り方
- ボウルに小麦粉、ジンジャー・パウダー、重曹、製菓用ミックス・スパイスを入れてよく混ぜる。
- ❶にバターを混ぜてそぼろ状になるまで混ぜる。
- ❷にソフト・ブラウン・シュガーを混ぜる。
- 別の容器に卵とゴールデン・シロップを入れてよく混ぜたものを❸に入れて混ぜ、よくこねて生地を作る。
- 生地を丸めてラップで包み、冷蔵庫で30分ほど冷やす。
- 打ち粉をしたまな板の上に生地を置き、麺棒で5ミリ程度の厚さに伸ばし、ジンジャーブレッド・マンの型で抜く。
- 180度に予熱したオーブンで10~15分焼く。焼き上がったらワイヤー・ラックに並べて冷ます。
- 好みのアイシングとデコレーションをして出来上がり。クリスマス・ツリーに飾る場合には、❻で型を抜いた後に紐を通すための穴を開けておく。
memo
ジンジャーブレッド・マンは、レシピによってパリッと硬めのものと、少し膨らんで柔らかめのものがあります。周りの英国人には柔らかめを好む人が多いようですが、皆さんのお好みはどちらでしょう?