ロール・モップ・ヘリングス
Roll Mop Herrings
英国に住み始めた当初は、スーパーやマーケットで見る食材やお菓子、レディー・ミールのどれもが珍しくて、頻繁に新しい食べ物を試していました。それが、英国暮らしも長くなってきて、最近ちょっとチャレンジ精神に欠けてきたような気もします。なので、今回は初トライのものを買ってみました。それが「ロール・モップ・ヘリングス」です。たいていのスーパーで、カニかまぼこやスモーク・サーモンなど、魚介類の加工品が陳列されている棚の中間あたりに、プラスチックの容器に入って売られているそれは、ニシンの酢漬けです。長らく手を出さなかったのは、入っている容器が、ウナギのゼリー寄せの器に似ているので、こちらもかなり手強い食べ物かもと、ちょっと偏見を持っていたためかもしれません。
くるりと巻かれた魚に刺してある短い串を抜いて、お箸で食べてみました。すると……なんとも懐かしい味がするではありませんか。というのも、身は軟らかめとはいえ、締めさばにそっくりの風味なのです。パックの中にはしっかりと酢味の効いたマリネ液と一緒に、薄切りの玉ねぎとガーキン(キュウリのピクルス)が入っていて、そのまま前菜やおつまみに良さそう。でも、思い浮かんだのは、これで作るサバ寿司もどきでした。
インターネットで検索してみると、同じことを考えて、実際にロール・モップ・ヘリングスを使ってお寿司を作っている方がたくさんいることを知りました。こんなに広く知られているのに、どうして今まで気付かなかったのか、とわれながら不思議に思いつつ、さっそく寿司飯を作りました。寿司職人が作るものには到底及びませんが、初めての英国流サバ寿司、いえニシン寿司は思いの外、上出来です。ロール・モップ・ヘリングスすら今まで一度も食べたことがなかったという英国人の夫も、喜んで食べていました。
ニシンは、スカンジナビア地方を始め、欧州各地で古くから貴重なタンパク源として食されてきました。生で食べるだけでなく、燻製にしたり、酢漬けにしたりして保存食としても重宝されてきたのです。ロール・モップという名前は、ドイツ語の「Rollmopse」からきていると言われ、身を丸めてオードブルのようにするこの食べ方は19世紀に人気となったようです。それがいつ英国ではやりだしたか、文献は見つかりませんが、著名なフード・ライターであるアラベラ・ボクサーが1920~30年代の料理書からレシピを集めた著書「アラベラ・ボクサーズ・ブック・オブ・イングリッシュ・フード」には、前菜やランチの冷菜としてロール・モップ・ヘリングスが供されたと記されています。
日照時間の短い英国では不足しがちなビタミンDや、最近注目のオメガ3脂肪酸が豊富に含まれているというニシン。これからはロール・モップ・ヘリングスをお寿司にして、せっせと栄養を摂取したいと思います。
なんちゃってニシン寿司の作り方
材料
- 寿司飯 ... 適量
- ロール・モップ・ヘリングス ... 適量
作り方
- キッチン・ペーパーを使ってロール・モップ・ヘリングスの水分を取る。
- 巻きすの上にラップをかぶせ、その上に❶を適量並べる。
- ❷の上に寿司飯を適量重ね、巻きすでしっかり巻く。
- 巻きすで巻いた状態のところに、上から輪ゴムでさらに きっちりと押さえて、30分ほど置いておく。
- 巻きすをほどき、食べやすい大きさに切って出来上がり。
memo
石牟礼道子さんの「食べごしらえ おままごと」を読んでいたら、寿司飯の中に締めさばを薄くそいだものを混ぜる「ぶえん寿司」というのが出てきました。次はロール・モップ・ヘリングスを使ったぶえん寿司を試してみようかと思います。