英国で最大のインディペンデント系映画祭
第28回 レインダンス・フィルム・フェスティバル Raindance Film Festival 28 October - 7 November 2020
時代を象徴する話題の映画を楽しもう
規模は小さめながら面白く個性的な作品が集まるレインダンス・フィルム・フェスティバルが、今年も開催される。メジャー路線にはないエッジの効いた作品が集まる、英国最大級の映画祭。今年は数作品のみ劇場で上映され、基本的にはオンラインでの開催となる。注目の日本人監督へのインタビューに加え、お勧め作品を併せて紹介しよう。
チケット:£19.99(オンライン公開の映画作品にアクセスできる。1作品30時間まで視聴可能。チケットは5日間有効)
www.raindance.org/festival
The Past is Always New,
the Future is Always Nostalgic
Photographer Daido Moriyama
過去はいつも新しく、未来は常に懐かしい
写真家 森山大道
(Japan 2019 / 108分)
監督: 岩間玄 森山大道、神林豊、町口覚ほか
写真家、森山大道のデビュー写真集「にっぽん劇場写真帖」の復刊プロジェクトに密着したドキュメンタリー。森山氏と写真集の編集者とのやり取りなど、制作の過程を丁寧に切り取る。
11月3日(火)16:00(監督によるQ&Aあり)
11月5日(木)13:30(3日のQ&Aを含む上映)
注目の監督にインタビュー① 岩間玄監督
森山大道を「感じて」もらえる先鋭的な表現にチャレンジすることができた
なぜ、森山大道氏の映画を撮ろうと思ったのでしょうか。約25年前にテレビ番組のドキュメンタリー撮影で1度森山氏に会っていらっしゃいますが、今回は映画監督として撮影するにあたり、どのように森山氏を口説かれましたか。
かつて制作したテレビ番組「路上の犬は何を見たか? 写真家・森山大道1996」の放映20周年を記念したトーク・イベントに森山さんと出席した際、観客からこう問われてハッとしました。「この20年で写真はアナログからデジタルへと激変した。機材もプリントも何もかもが変わった。なのに森山大道は変わることなく撮り続けている。こんな面白い状況のなか、あなたはなぜ今現在の森山大道を撮らないのか?」と。確かにそうだ、過去の森山さんを撮影した自分だからこそ切り取ることができる(発見できる)「現在」が あるはずだ。そう考えたものの、写真同様、テレビの世界も大きく変わりました。そこで、だったらいっそ映画にできないか、と森山さんに相談しました。すると森山さんは言うのです。「僕は1人で街角をウロウロ歩いてスナップしているだけです。だから映画の大所帯の撮影隊が来るならはっきりお断りです。僕のスタイルになじまないから。でも……あなたがたった1人で撮影するならいいですよ」。そう言って森山さんは挑発的にニヤッと笑ったのです。むむむ、よーし、やってやろうじゃないか!と、僕は無謀にも撮影・監督・編集の一人三役に挑むことになりました。
撮影を終えていかがでしたか。森山氏の新たな魅力や変わらない部分など、撮影での印象的なエピソードがありましたら教えてください。
森山さんは、びっくりするほど昔と変わっていませんでした。照明も三脚も持たずコンパクト・カメラ一台だけで街をさまよい、スナップを重ねていく。20数年前と全く変わらない。アナログからデジタルへの変化なんてどこ吹く風。周囲の世界がどれだけ変わろうが、森山さん自身は全く変わらない。この変わらなさこそが、森山大道の核であり強みだと今回実感しました。大きな出来事や時代・環境の変化で、普通人は否応なく変わっていくものですよね。森山さんのように変わらないことが実はどれだけタフですごいことなのか、と改めて思いました。
本作で映画監督デビューをなさりましたが、ご自分に合っていると感じましたか。実際に撮影してみて、プロデューサー業とどう違ったか、また新たな発見などがありましたら教えてください。
これまで、プロデューサー・演出家として多くのテレビ番組を作ってきました。テレビは「説明」のメディアだと思っています。圧倒的大多数に向けて分かりやすく、丁寧に親切に作らなくてはいけない。でも今回の映画はそれら全てから解放されて、森山大道を「説明」するのではなく、映像で「感じて」もらうという先鋭的な表現にチャレンジすることができました。どちらの面白さもありますが、次も映画監督としてさらに大胆に新たな映像表現に挑んでみたいなと率直に思っています。
TRUE NORTH
トゥルーノース
(Japan 2020 / 94分) 監督: 清水ハン栄治
Joel Sutton, Michael Sasakiほか
少年ヨハンの父親が反逆罪の疑いをかけられたことにより、一家全員は北朝鮮の政治犯の収容所へ強制的に送られてしまう。平和だったこれまでの人生から、突然理不尽で残酷な世界を生き抜かなくてはならなくなった主人公の姿や、逆境に負けない家族の深い絆を、3Dアニメーションを通して描く。
10月28日(水)〜11月7日(日)公開
注目の監督にインタビュー② 清水ハン栄治監督
自由社会でメディアに携わる者としてできることをやりたい
一流企業で働く超エリートのキャリアを捨て、映像の世界に飛び込まれたそうですが、その原動力は何だったのでしょうか。
超エリートとは言い過ぎですが、一般的な日本のサラリーマンとしては大企業で、そこそこの待遇は受けていたと思います。チヤホヤされたし、給料も良かったですし。小さなころから、そこに幸せが待っているよ、みたいに言われて頑張ってたどり着いた場所でしたが、ぶっちゃけて言うと、それを手に入れても全然幸せを実感できなかった。「あれ、人生これだけだっけ」、みたいな感じ。勢いで脱サラしました。
本作では、北朝鮮の政治犯の強制収容所について描いていらっしゃいます。一般的に、なかなか知ることができないこのテーマを選ばれた経緯について教えてください。
「本当の幸せって何だろうか?」このテーマで世界中の心理学や脳医学の先生に取材してドキュメンタリー映画を作ったり、瞑想講師の資格を取得したり、南国に移住したりと、いろいろなことにチャレンジしてみましたが、最終的にたどり着いたのが「making sense of my own life」という命題でした。「自分がなぜ存在しているのか」を少し実存主義的に自己問答していきますと、アイデンティティーや自分のルーツに、否が応でも向き合わなくてはならない羽目になってしまいました。僕の在日コリアン4世という特異な出生を探っていくうちに、1960〜70年代に行われた在日コリアンの帰国事業で、日本から北朝鮮へ渡った9万3000もの人々の悲しい経緯や、政治犯の強制収容所に送られた人も多いらしい、ということが分かってきたのです。一歩間違えば僕も収監されていたな、と。そこで自由社会でメディアに携わる者として、何かできることはないのだろうか、と思ったのが本作品をつくるきっかけでした。何かしらのインパクトを人々のなかに残せたら、それこそmaking sense of my own lifeできて幸せだろうな、とちょっと利己的な期待も込めて。
清水監督は映像作品以外にも、出版や教育事業など幅広い分野で活躍なさっています。ウィズコロナという制限付きの時代に突入していますが、今後はどんなことに挑戦していきたいですか。
コロナ禍では資金集めもままなりませんが、低予算でも質の高い3Dアニメの制作体制を築くことができたので、物議を醸す映画をどんどん世に出すべく準備をしています。「TRUE NORTH」のようにテーマ的に危なっかしいもの、でも世に出さなくてはならない課題を取り扱うので、制作スタジオの名前は「すみません」。きっと多方面から批判もあろうかとは思うので、あらかじめ社名で謝っちゃっています。すみません。
注目の作品
異空間で出会った謎の女性たち
A Dim Valley
ア・ディム・ヴァレー
(USA 2020 / 92分) 監督: Brandon Colvin
Zach Weintraub, Whitmer Thomas, Robert Longstreetほか
生物学者と2人の学生アシスタントが森で遭遇した、神秘的な出来事を描く。研究のため、米アパラチア山脈を旅する一行は、森の奥で3人の女性に出会う。ロングテイクの手法で、幻想的な世界観を表現した意欲作。
10月28日(水)公開
移民制度の闇に焦点を当てる
The Eagle's Nest
ザ・イーグルズ・ネスト
(UK 2020 / 90分) 監督: Olivier Assoua
Claude S Mbida Nkou, Felicity Asseh, Richard Essameほか
欧州での生活を夢見るパリと、ふるさとに残りたいサマンサ。カメルーンの田舎を舞台に、2人のセックス・ワーカーの人生と友情を描く。カメルーン出身の英国人監督、オリヴィア・アッソウアがメガホンをとる。
10月28日(水)公開
ダイナミックな映像で環境問題を解く
Once You Know
ワンス・ユー・ノウ
(France 2020 / 104分) 監督: Emmanuel Cappellin
Richard Heinberg, Saleemul Huq, Susanne Moserほか
カナダのマギル大学で環境学を学んだ、エマニュエル・カッペリン監督による詩的な長編ドキュメンタリー。世界各地で撮影された映像を効果的に使い、気候変動によって引き起こされた深刻な環境問題を問いかける。
10月30日(金)公開
ウクライナでのユニークな1コマ
My Thoughts Are Silent
マイ・ソーツ・アー・サイレント
(Ukraine 2019 / 104分) 監督: Antonio Lukich
Irma Vitovskaya, Andriy Lidagovskiyほか
ウクライナからカナダへの移住を願う、サウンド・エンジニアのヴァディム。運良くカナダの会社からゲーム音源の録音プロジェクトを与えられ、故郷ウクライナで動物の声の収集に奔走する。コミカルなロード・ムービー。
10月30日(金)公開