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Fri, 22 November 2024

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

エデン・プロジェクト

「エデン・プロジェクト」は、イングランド南西部のコーンウォール州にある「環境保護」をテーマとしたラーニング・センター型の複合施設だ。特に目を引く2つの温室は「バイオーム」と呼ばれ、世界最大級の植物園となっている。熱帯や地中海の温暖な気候が再現され、植物の地球における役割を伝えている。

バイオーム

2001年にオープンしたこの「エデン・プロジェクト」。巨大な教育施設は英国屈指の観光地としても知られるが、もともとはコーニッシュ粘土の採掘場跡地の再生事業であり、とりわけ、人間環境における植物の役割や重要性を世界に訴える慈善事業を目的としている。15ヘクタールの敷地を誇り、館内では、機械仕掛けの人形による寸劇やアートを使ってのパフォーマンスなど、人々の味と関心を惹きつけるための様々な工夫が凝らされている。

上空から見たエデン・プロジェクト
上空から見たエデン・プロジェクト

のどかな風景の中に、ひときわ異彩を放つ建物がある。バブルが巨大化したような「バイオーム」と呼ばれるそれは、ドーム型の巨大な温室となっており、内部の植物園では熱帯と地中海の気候が再現され、現地に繁殖する種々の植物が栽培されている。このドームは、ハイテク建築家、ニコラス・グリムショー卿(1939年~現在)と、構造設計集団「アンソニー・ハンツ」社との共同で設計された。

5角形パネル
6角形のパネルを収束させる5角形パネル

ノーマン・フォスター卿やリチャード・ロジャース卿に続き、英国を代表するハイテク建築家であるグリムショーの代表作には、旧ウォータルー国際ターミナルなどがある。「ETFE」という新素材で造られたドームは、主に6角形パネルから構成されている。頂部には5角形のパネルが据えられ、6角形パネルを収束させるキーストーン(かなめ石)の役割を担っている。従来の膜素材にくらべ透明性が高いETFEは太陽エネルギーを最大限に取り込むことが出来て、省エネ効果がある。ETFEを使うことにより、設計の初期段階で計画していたガラスよりも軽量化し、ドームを構成する鉄骨フレームもスレンダーになった。

ETFE建築の先駆け

以前から、膜構造による建築物の可能性が議論を巻き起こしていた。過去の技術では夢物語だった未来的建築も、ETFEの開発により現実味を帯びてきた。その先駆けとなったのが、まさに2001年にオープンしたエデン・プロジェクトのバイオームだった。予定していた建築面積が大幅に縮小するものの、世界に誇るバイオームの建設は、メイン・テーマである「人間環境の持続可能性の追求」だけでなく、新建築の可能性をも示唆することとなった。

パネル
これらのパネルは温度調節や換気も自在に行える

ETFEとは、旭硝子が開発した熱可塑性フッ素樹脂のことで、耐久性に極めて優れ、電気製品、航空・宇宙産業、温室などに幅広く使用されている。透明で軽く、曲面状の施工が容易である上、表面は汚れが付きにくいためメンテナンスし易く寿命も長い。コストの高さが課題ではあるが、今夏の北京オリンピックでは、北京国家水泳センターやメイン・スタジアム(通称:鳥の巣)の屋根など、時代を象徴する大規模建築での採用が注目されている。ただ、皮肉にも日本では国土交通省の認定が降りておらず、せっかくの新素材も母国の建築界では陽の目を見るに至ってない。とは言え、今後ますます、ETFEを使った新しいデザインの出現が期待されている。

 

藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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