第18回 驚きの英国中等教育
英国式中学受験を経験したら、いよいよセカンダリー・スクール・ライフの開始です。英国の中等教育では、小学校時代に経験した「思考能力の鍛錬的教育」がさらにグレードアップしていきました。
例えば、息子が中学1年生のときの歴史の授業には、小学3年生で学んだ、世界大戦が再び出てきました。その中の課題の一つは、「1944年の『D-デー』(ノルマンディー上陸作戦決行日)の戦場にいた、一兵士の日記を作りなさい」というものでした。
日記というのは、一兵士になったつもりでなければ書けません。歴史の背景、その後の歴史に与えた影響、兵士本人が置かれた状況とその戦歴などなど、授業以外にも図書資料や戦争映画のDVDなどを観て、様々な観点から探っていく作業が必要です。日本の歴史授業のように、時代別に起こった出来事を次々に覚えていく授業とは、天と地ほどの違いがあります。
ではここで、英国の子供たちは上記のような課題をどういった形で仕上げていくのか、その一例をご紹介しましょう。
日記の設定は今から70年以上も前の時代です。真新しい白いレポート用紙に書いたのでは味気がありません。そこでまず、紙をコーヒーで染色し、時代がかったようなセピア色に。乾かしたところに、数カ所焦げ目を付けます。さらに赤インクで血糊の演出。近くにいた「戦友」が撃たれてその返り血を浴びた、もしくは、日記の著者自身が最後は敵の銃で命を落とした――そんな物語が見えてきます。その紙を針と糸で製本し、「日記帳」の完成です。そして、製本した日記帳に自分の想定した当時の戦闘の数日間を綿々と綴(つづ)っていくのです。
時には祖国に残した家族への思いを。鉛筆書きの戦場の模様をスケッチした「挿絵」入りの戦場レポートもあります。史実に基づき、当時の兵士になった気持ちで書かれた8~10ページにわたる「日記」。これだけ凝った作業をした生徒には、最高点のグレードAが与えられます。
もちろん、教師は課題の提出形態について詳しい指示は出しませんので、中にはレポート用紙にさらっと書いて出す生徒もいます。つまりは歴史の授業を通じて個々の「想像力」や「プレゼンテーション能力」も測られているわけです。
国語については、中学2年時でシェイクスピアの戯曲の一つを精読し、これまたあらゆる観点から研究を進めていくといった授業に発展していきます。英国の中等教育の授業、特に人文系の授業内容を見ると、日本の教育との違いに愕然(がくぜん)とします。
日本の中学や高校での授業などは、お恥ずかしい話「睡魔との闘い」(苦笑)だった我が身。英国で授業を受けている息子に当時、「授業中、眠くならないの?」と質問をしたら、「何で眠くなるの?」と、逆にこちらが質問されてしまいました。
スウィンドンにある鉄道博物館でのひとコマ。第二次大戦の避難体験中。学校向けに、10以上のプログラムが用意されています