第23回 英国流「反抗期」回避の術
子育てをしていると、10代を迎えたころから急激に大人びて生意気になり、親の言うことには耳も貸さなくなる子供が増えると思いますが、我が家も同様でした。いわゆる「反抗期」というものだと思いますが、急成長する身体に精神的な部分が追いつかない、またはその逆もありと、子供自身の苦しみも、もちろんあるのでしょう。
その体と心のアンバランスな部分を、ややスパルタ方式で解決といいますか、10代特有のダラダラとした時間を埋めてくれたのが、息子の場合は近所の空軍基地で行われていた「エア・カデッツ」での活動でした。
「カデッツ」とは直訳すると「士官候補生」。英国では将来の士官候補生を育てるために、陸・海・空軍の各地の師団が中心となって、12歳から20歳までの青少年を対象に、心身を鍛えるための訓練やボランティア活動などを行っています。具体的には、ボーイスカウト、ガールスカウトに近い活動と言えば分かりやすいかもしれません。
しかしながら、主体は軍隊ですので、例えば入隊して最初に与えられる仕事は、自分が身に着ける軍支給の制服のケア。リチャード・ギア主演で大ヒットした映画「愛と青春の旅立ち」(1982年)の一場面のごとく、教官に叱られないよう、革靴をピカピカに磨き、シャツやズボンも皺ひとつないようにピシッとアイロン掛けをします。普通ならば母親に「やって」とお願いするところでしょうが、教官に言われたのか、息子の場合は母親の手を一切借りることなく、慣れない手つきで黙々と取り組んでいました。まずは紳士としての身繕いからきっちり叩き込まれているのかな、と傍らで感じたものでした。
毎週の活動は「ドリル」と呼ばれる行進訓練や銃の扱い方など、軍隊らしい訓練もありましたが、地域で開催される花火大会や航空ショーの警備活動など、地元に貢献するボランティア的な活動も多くありました。15歳のときにはダートムーアの荒野を10日間かけて野営しながら横断するというサバイバル訓練も。翌年には希望者のみになりますが、空軍らしく飛行機の操縦訓練も受けられ、息子の場合は16歳の夏に地元コッツウォルズの上空を単独操縦飛行という、日本では考えられないような貴重な体験もできました。
このカデッツ活動に参加している英国の青少年の数は、空軍の「エア・カデッツ」だけでも4万人以上。また名門パブリック・スクールを始めとする全国約200校の私立学校でも、校内活動の一環としてカデッツへの参加が促されています。カデッツは軍隊入隊が目的なのではなく、健全な青少年を育成するためのものであることも明文化されていますので、元気のいいティーンエイジャーにはうってつけの「反抗期」回避術かもしれません。
今年2月には、エア・カデッツのパトロンであるキャサリン妃が
ウィッタリング基地のカデッツを訪問しました