飛行機、鉄道、郵便……
ストライキに揺れる英国
3月、航空大手ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)のキャビン・クルーによるストライキが2回にわたって実施された。イースター休暇明けに予定されていた鉄道のストライキは中止となったものの、代わって夏に行使される予定となっている。また郵便や教育業界における労働紛争もしばしば世を騒がせており、英国でストライキに関するニュースには事欠かない。いつ果てるとも知れない会社経営者と労働組合の争いの実態とは。
英国の主な労働組合
英国の地下鉄や鉄道で頻繁にストライキを実施することで知られる、RMTのボブ・クロウ書記長
RMT(The National Union of Rail, Maritime and Transport Workers)
公共交通機関の、特に保守作業を担う労働者が多く所属する。組合員数は約8万人。規模は小さいが、鉄道ストライキを実施するなどして大きな影響力を持つ組合の一つ。
www.rmt.org.uk
Unison
英国で第2位の規模を持つ労働組合。地方政府や国民医療保険(NHS)機関などの公的機関に勤める職員たちが多く参加している。組合員数は約134万人。
www.unison.org.uk
NUT(National Union of Teachers)
約30万人の組合員数を誇る、欧州で最大の教職員組合。教員免許の所有者のみを対象としている。1870年に創設という古い歴史を持つ。
www.teachers.org.uk
PCS(Public and Commercial Services Union)
公務員を支持母体に持つ労働組合としては、英国最大。国税庁、労働・年金省など分野ごとにさらに小さなグループが形成されている。組合員数は約32万人。
www.pcs.org.uk
TUC(Trades Union Congress)
総計650万人の労働者を擁する58団体が名を連ねる、英国における労働組合の全国中央組織。UniteとUnisonの組合員がその半数を占める。
www.tuc.org.uk
Unite
BAのストライキで一躍脚光を浴びた、単体としては英国最大の労働組合。対象とする業種は多岐にわたり、所属する組合員数は200万人以上に達する。
www.unitetheunion.com
CWU(Communication Workers Union)
大手電気通信会社BTなどのテレコミュニケーション関連企業に加えて、ロイヤル・メールで働く労働者が多く参加している組合。組合員数は約25万人。
www.cwu.org
NASUWT(National Association of Schoolmasters/Union of Women Teachers)
もともとは上記NUT内のグループの一つとして誕生。同組合の方針に対する考えの相違を理由として、1922年に独立した。組合員数は約20万人。
www.nasuwt.org.uk
GMB
様々な分野における労働者が参加する労働組合。とりわけ公的機関で働く肉体労働者たちが多く参加する。組合員数は60万人以上。
www.gmb.org.uk
2009年
10月末 | ロイヤル・メールが数週間にわたり、断続的にストを実施 |
12月中旬 | BAが年末年始にかけてのスト実施を予告 写真右:スト実施決定を発表するUniteの関係者たち |
12月17日 | 高等法院が違法との判断を下したために、年末年始に予定されていたBAのストは中止に |
2010年
3月22日 | BAがついにストを実施。3日間にわたり、238便が欠航 |
3月25日 | RMTがイースター期間終了直後から のストライキを予告 |
3月27日 | BAが4日間にわたり、再びストを実施 |
4月1日 | 高等法院が違法との判断を下したため に、イースター期間直後に予定されて いたRMTのストは中止に |
ストライキが及ぼす影響
英国で、ストライキに関するニュースが盛んに報じられている。航空大手のブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は、3月末に合計7日間にわたってストライキを実施。司法の判断で阻止されたものの、イースター休暇明けには全国的な鉄道ストも予定されていた。また2009年の秋には、ロイヤル・メールの職員が多く加入する労働組合CWUが及ぶ断続的な郵便ストを敢行している。
これらのストライキによって、英国市民は大きな被害を受けている。昨年の郵便ストによる影響を最も受けたのは、経済的な理由から別の輸送手段を利用することが容易ではない小規模なインターネット通販の会社であった。スト期間の前後に頻発した発送物の紛失や配達の遅延によって、顧客の信頼を失った会社も多いという。
21世紀の労働組合
1980年代の保守党政権を率いたマーガレット・サッチャー元首相は、当時の労働組合が画策したストライキを、次々と法的に封じ込めることに成功した。しかし、90年代後半に政権が労働党に移ると、労働組合は新たな方法を使って次第に力を取り戻していった。英国のメディアは、最近の労働組合を「武闘派(militant)」と表現することが多い。その理由は、雇用条件や給与、年金システム等の変更を会社側が提示してきたときに、話し合いによって粘り強く交渉を続けることよりも、すぐさまストライキを実施することで経営側に揺さぶりをかけようとする動きが増えているからだ。20世紀の英国においては、ストライキはまだ労働争議における最後の手段と見なされていた。しかし、現在では交渉の出鼻からストライキを持ち出すことによって、労働組合は自らの存在とその影響力を、社会と経営陣に誇示しようとしているとさえ受け止められている。
不可解なボーナス支給が背景に
強力な労働組合を持つ業界の雇用条件は、実際のところ、平均的な民間企業のそれよりも恵まれていることが多い。多くの人が失業を余儀なくされているこの不況下において、ストライキをちらつかせながら待遇改善を求める姿が、世の中の理解を得るのは難しいだろう。しかし、責められるべきは労働組合だけではない。鉄道保守会社やロンドン地下鉄の運行に携わる経営幹部やロイヤル・メールの最高経営責任者に支払われる高額な給与さらにはボーナスには、不可解なものも少なくないからだ。
例えば、経営状況が悪化しているロイヤル・メールでは、いくつもの支店を閉鎖したことによって赤字を縮小したとの理由で、最高経営責任者にボーナスが支払われている。また鉄道会社の経営陣には、一定期間の鉄道遅延率が数パーセント改善できたとしてボーナスを支給。遅延率減少の目標値に到達できなくて退任を強いられたときですら、雇用契約だからとボーナスが払われる。こうした企業文化は、労働組合がストライキに訴え出るには十分な理由となる。
一方、有力な労働組合から多額の政治献金を受けている労働党政権は、ストライキに反対の声明を出すものの、その対応については及び腰。結局、ストライキが実行に移される度に最も影響を受けるのは利用者という構図は、いつの時代でも全く変わらないのである。
Bob Crow
ボブ・クロウ。鉄道職員が多く加盟する労働組合RMTの書記長。「スキンヘッド」と形容される髪の毛を剃った頭と、がっちりした体つきといった他者を威嚇するような容貌から、「武闘派組合」の象徴として見られている。ロンドンの労働者階級出身であり、若い頃から一貫して熱心な労働運動の活動者としての人生を歩んできた。その高圧的な性格ゆえ、労働者の中でも彼に反感を示す者は多いとされ、RMTに参加する組合員数は減少傾向にあるという。また親族に組合の要職を与えるなどの行為が報じられるなど、英国各紙の紙面をよく騒がせている。(守屋光嗣)
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