第6回 妊婦ウォッチング
妊婦ウォッチングをしていると、妊婦がお腹を抱える状況に3つのパターンがあることに気づく。
第1のパターンは、お腹がぽっこり出てくる妊娠中期に見られる「宣言」型。中期といえば、お腹は出てはいるものの、外見上、「明らかに妊婦」と判るほどではない微妙な時期。特に英国にはナチュラル太鼓腹(失礼)の女性が多く、紛らわしい。そこで妊婦はそれらしくお腹を抱えて、「ここに入ってるのは、脂肪の塊ではなく新たな生命なのよ。私はただのデブではないのよ」と宣言してみるのだ。マタニティ雑誌のセレブ妊婦特集ページを見ていると、みごとに全員お腹を抱えたポーズでカメラに向かっている。
第2のパターンは、バスや電車など、公共交通機関の中で見られる、「顕示」型。混んだ車内、だーれも席を譲ってくれず、その気配さえない時に、「あのう私、妊婦なんですが……」とわざとらしくお腹をさすって沈黙の席乞いをしているというもの。席を譲ってくれない人の多いロンドンでは、妊婦的サバイバル・スキルと言っても過言ではない。ちょっといやらしいかもしれないが、結構無意識にやっていたりする。私の妊婦友達もよく使う手らしい。皆さん、妊婦が目の前でお腹をさすり始めたら、席を譲ってくださいな。
そして第3のパターンは、もっとイノセントな、「胎動集中」型。これは胎動の回数、内容ともに面白くなる妊娠後期の妊婦にみられる現象。それまで一緒におしゃべりしていた妊婦友達がハタと動きを止め、じっと黙り込むときがある。「何か考え事をしているのかな」と思うと、実は、胎動に聞き入っている、というか、意識を集中させていたりする。赤ちゃんの存在を感じる唯一の手がかりである胎動は、妊婦にとって最高のエンターテイメント。それまでの活動を全て停止させ、胎動に集中してしまのだ。
「妊娠中は注意散漫になる」とよく言われるけど、赤ちゃんと自分の世界に浸っているのが原因かもしれない。そう言う私も、胎動がある度にキーボードを叩く手を止めては、これを書いているのだ。