第9回 妊娠中の家探し
家族が増える予定のできたカップルが、まず頭を悩ませるのが住まいの問題ではないだろうか。居住スペースが足りなくなるという物質的な要素だけでなく、子供を育てるのに適した環境も考え始めるようになる。私たち夫婦も例外にもれず、妊娠を機に引っ越しを考え始めた。
現在の住まいは、夫の通勤の利便性のみを重視した、オフィス街近くの賃貸マンション。再開発地域なのだが、もともとの治安が悪く近所の学校は荒れ放題、といった感じ。実際、私は近所の子供(推定6歳)にカツアゲされそうになった。子育てに適している場所とは到底思えない。
引っ越し先エリアを決めるにあたり、日本にいた時から考えていた「緑が多く、通勤に便利」といった条件のほかに、ロンドンに住み始めてからできた条件というのもある。その一つが、「良い公立小学校の通学圏(キャッチメント・エリア=CA)にある」というもの。
子供が生まれる前から学校の心配をするなんて、日本にいた時には考えられないことだったが、たとえ同じ町にある学校でも、微妙なエリアの違いで教育レベルに大きな格差が現れるのがロンドンの公立学校事情。学校教師をしている義理の妹によると、荒れた学校では、教師さえ身の危険を感じるほどだと言う。また、人種差別的いじめの存在も心配だ。
評価のよい学校のCAにある不動産は、当然高いのだが、そんなCAをめぐる悲喜こもごも話も多い。こんな話がある。夫の同僚、Aさん。子供の将来を見据え、評判の良いX校のCAにある家を購入。が、翌年、カウンシルが方針を変え、なんとAさん宅はX校のCAから外れてしまった。引っ越そうにも、CAの蚊帳の外となったことでAさん宅の価値が急落することは目に見えている……。まさに現代英国の怪談だ。
私立へ通わせる金銭的余裕があれば話は別なのだが……と、結局そこへ行き着くのよね。