第11回 出っ腹になりたい
まだペタンコ腹だった妊娠初期の頃、街角や妊婦雑誌で見かける、風船のようなまんまるのお腹を抱えた妊婦に憧れた。すっかりでべそになったおへそのでっぱりが服の上からわかったりすると、「かわいぃ!」と心の中で興奮。我ながら、かなり怪しい人間だったと思う。大きなお腹って、安定感があるというか「妊婦としてあるべき姿」に思えてしまう。
いつか自分も…と希望を抱きつつ日々を過ごしてきたのに、私のお腹はなかなかそのレベルに到達しなかった。英国人との体型の違いもあれど、日本人の妊婦友達と比べても、明らかに私のでっぱりは小さめ。小腹が悩み…、なんて妊娠中にしかありえない贅沢な悩みだけれど、このことで冗談ではなく悩んだ。
よく、ドラマで中年にさしかかった夫婦が「ハニー、私のお尻、大きくなったと思わない?」「スウィートハート、ばかだな、そんなことないよ」という会話を交わす場面があるが、うちはまったく逆で、「ねえ、私のお腹、小さいと思わない? 」「そんなことないよ、心配しなくても十分大きいよ」といった変なやりとりがしょっちゅう行われたものだ。
さらには妊娠が進むと小腹コンプレックスに加えて、胎動コンプレックスも現れ始めた。英国では初めての胎動を表現するとき、「fluff(綿毛)」とか「a butterfly in the stomach (お腹の蝶々)」などと表現する。一般に、胎動を感じ始めるのは妊娠18~22週で、初めは綿毛程度の胎動が、後期には回数、勢いともに激しくなるとされるけど、私の場合は後期近くになっても綿毛程度だった。このことで「赤ちゃん元気なのかな」とナーバスになり、「もっと強く蹴って!」と赤ちゃんに向けて懇願したほど(笑)。痛いほど蹴られたいという望みを持つのも妊婦独特かもしれない。結局、後期に突入すると胎動もお腹の大きさもそれなりになり、コンプレックスはだんだんと薄れていったのだけれど……。
胎動も、お腹のでっぱりも、本当に人それぞれで、私の悩み方は異常だったのかもしれないけど、妊娠中はとかくちょっとしたことに神経過敏になってしまうのでした。